70代になったからこそできる役を演じてみたい
――現在75歳。俳優として、また一人の男性としてこれからどんな人生を歩んでいきたいですか?
「18歳くらいのときに“役者の道に入りたい”と思った気持ちは未だに変わっていないです。なので、他の職業をやろうなんてことは考えたことはありませんし、できれば、この年齢になったからこそやれる役と出会いたいなと思っています」
――市村さんでも、まだ演じたことのない役があるのですか?
「だって、30代じゃ70歳の役はできないからね。どうしたって『リア王』を30代ではできないし、『ハムレット』を70代ではできないでしょう? ドラマや映画などの映像作品でも、やったことのない役をやっていきたいですね。
たとえば、笠智衆さんが『男はつらいよ』で演じた“柴又帝釈天の御前様(坪内住職)”みたいな役は無理かもしれないけど、田中泯さんのように、その年齢に達したからこそできる役というのはあると思うんです。なので、プロデューサーの方や監督が“市村とこういう役で仕事したいな”って思っていただけるように準備をしてお待ちしています」
――映像のお仕事はもちろんですが、やはり市村さんといえば“舞台人”だと個人的に思っています。長年立ち続けている板の上に、今どんな思いで立っていますか?
「僕は、“他人の激しい人生を2、3時間の中で生きることって素晴らしいな”と思って、今日まで役者を続けてきています。近年だと『ラブ・ネバー・ダイ』でファントムを、その次は『屋根の上のヴァイオリン弾き』でテヴィエと……その都度、その役を構築してお客さんの前で生きてみせる。それに尽きます。ほかの余計なことは考えていないですね」
――毎回自分とは全く違う役を生きるというのはどんな感じなのでしょうか。
「人間には想像力というものがあるので、その想像力が乏しいと役を演じることはできないと思うんです。自分がこうだったら、という“〇〇だったら”でいろいろなことに想像力を働かせて、自分の中にイマジネーションをたくさん持っていれば、極悪な人間も正義感にあふれた人間でも、どんな役でもできます。役者というのは、大きな意味でいえば“なんとかごっこ”ですから。その世界に入ってなりきって生きていくというのは楽しいですね」
――想像力を豊かにするために実践していることはありますか?
「僕は基本的に人間に興味があります。そして、世の中の動きに興味があるし、自然や生き物、食べ物に興味がある。そうやって、いろいろなものに関心の目を向けることですかね」
75歳の今でも、現役で意欲的に舞台に立ち続ける市村さん。そんな市村さんも、数々のオーディションを受けては一喜一憂する日々もあったことを今回のインタビューで知った。そして、自身の想像力を保つためにインプットを欠かさないことが、今も板の上で輝き続ける秘訣と活力になっているのだなと感じた。
取材・文/根津香菜子
いちむら・まさちか
1949年1月28日、埼玉県生まれ。俳優・西村晃の付き人を経て、73年に劇団四季の『イエス・キリスト=スーパースター』で俳優デビュー。退団後もミュージカル、ストレートプレイ、一人芝居など、さまざまな舞台に意欲的に挑戦する。2007年春に紫綬褒章、19年春に旭日小綬章を受章。菊田一夫演劇賞(演劇大賞)、読売演劇大賞(最優秀男優賞)、紀伊国屋演劇賞(個人賞)、森光子の奨励賞、松尾芸能賞(大賞)など受賞多数。近年の主な出演作品に舞台「屋根の上のヴァイオリン弾き」「ミス・サイゴン」「市村座」「生きる」などがある。
『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』
12月27日公開。神山健治監督、アーティ・パパゲオルジョウ、ウィル・マシューズ、ジェフリー・アディス、フィービー・ギッティンズ脚本。原作:J・R・R・トールキン「指輪物語 追補編」。134分。日本語吹替版キャスト:市村正親、小芝風花、津田健次郎、中村悠一、本田貴子、坂本真綾、斧アツシ、森川智之、入野自由、山寺宏一、沢田敏子、田谷隼、大塚芳忠、飯泉征貴、村治学、勝部演之。
公式ホームページ https://wwws.warnerbros.co.jp/lotr-movie/