友達なんてなろうと言ってもなれるものでもない

――フランスでも。

「学校の語学の先生が、僕を映画界の関係者に紹介してくれたんです。『パリの中国人』はオーディションだったんですけど“受けたほうがいい”と強力にプッシュしてくれまして。先生のお友達がテレビ局の偉いプロデューサーさんだったり、ジャン=ポール・ベルモンド(『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』)とか、大物の女優さん、俳優さんのマネージャーさんだったりして。そういう方々がプッシュしてくださったんです。それで監督も“いいんじゃないの”と」

――その時点では、ある意味乗せられた形だったのでしょうか。

「僕自身は放っておいたら会いに行ったかどうかも分からないです」

――長塚さんご自身が、出会われた人との関係性を築いていくのが上手なのでは。

「本当にラッキーなんですよ。友達なんてなろうと言ってもなれるものでもないし、たとえば、『パリの中国人』のようにちょうどアジア人を主役にした映画の企画が立ち上がるというのもラッキーなタイミングでしたし。何かしらの運が働いているのだと思います」

――「これをやりたい!」といって呼び込んでいるわけでは。

「意識的にそうしているわけではないけれど、何かやりたいとは潜在的に思っているんでしょうね。だから映画が僕の人生の転機かというと、強引に言ってしまえばそうかもしれないけれど、“そう言えなくもないな”くらいで。ただラッキーが人生を変えてくれているのは間違いない。そして、僕のそのラッキーは人との縁。つまり僕にとっての人生の転機、チェンジは“いろいろな人とのラッキーな出会い”です」

「とにかく自分はラッキーなのだ」と何度も口にした長塚さん。その姿勢こそが、長塚さんにしかるべきとき、しかるべき人との縁とめぐり合わせてきたのだろう。

長塚京三(ながつか・きょうぞう)
1945年7月6日生まれ、東京都出身。パリ・ソルボンヌ大学在学中に、フランス映画『パリの中国人』(74)の主役オーディションに合格して俳優デビューした。日本でのデビューはドラマ『樹氷』(74)。以降、多くのドラマや映画に出演。1995年のサントリー「NEW OLD」のCMや、25年務め上げたJR東海「そうだ京都、行こう。」のナレーションなどでも人気を得た。『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』(97)にて第21回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。主な出演作に、ドラマ『金曜日の妻たちへ』シリーズ、『ナースのお仕事』シリーズ、大河ドラマ『篤姫』、映画『恋と花火と観覧車』『笑う蛙』『長い長い殺人』『ぼくたちの家族』など。主演を務めた最新作『敵』は、第37回東京国際映画祭にて東京グランプリ/東京都知事賞、最優秀男優賞、最優秀監督賞の三冠を受賞。

●作品情報
『敵』
監督・脚本:吉田大八
原作:筒井康隆『敵』(新潮文庫刊)
出演:長塚京三、瀧内公美、河合優実、黒沢あすか、松尾諭、松尾貴史ほか
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト https://happinet-phantom.com/teki/