蜷川幸雄さんに「お前こうやってずっと泣いてきたんだろう」と声をかけられた
そんな蜷川幸雄さんから稽古の終わりに言われたあるひと言が忘れられないという。
「『わたしを離さないで』の稽古中に蜷川さんが泣いていたんです。僕はそこまで蜷川さんの現場を経験していなかったので、“そういうときもあるんだろうな”と思っていたんですが、稽古のそのシーンが終わって、蜷川さんのところに行ったら、僕の顔を見ながら、“お前こうやってずっと泣いてきたんだろう”と言われました。そのとき、まさに自分のことを見透かされてるなというか、全部見られてる感じがしたんです。その後も、過去のことを深く話さなくても、“こういうことあったんだろうな”と言われたり。人間を深く見られてる方だなと思うことは何度かありました」
三浦さんにとって恩師ともいえる蜷川さん。その関係を表すエピソードも。
「あるとき、蜷川さんに“お前と俺は対等だと思えよ”と言われて。僕は“わかりました!”と言って、次の日からタメ口で蜷川さんと喋っていました(笑)。“対等”という意味をちょっとよくわかっていなかったです(笑)。
ある日、会社の偉い人と次の現場に向かって歩いていたときに、蜷川さんから電話がかかってきたので出たんです。蜷川さんのお話の内容としては、その次の作品を前にして、新聞に僕の取材記事が載っていて“それを読んだぞ”ということだったんですが、“そうなんだ。ちょっと今忙しいから、またね!”って言って、電話を切ったんですよ。
そしたら会社の偉い人から“今誰と喋ってたの?”と質問されたので“蜷川幸雄さん”と答えたら、“どういう口の利き方してるのよ”、“それはまずいだろう”と。でも僕はもう敬語に戻せなくて、最後までちょっとフレンドリーな感じで話をさせていただいてました」