ムダにこそエンタメの本質が秘められている

 さらにもうひとつ、俳優として心がけていることを聞いた。

佐藤「『勇者ヨシヒコ』(テレビ東京系)で噛むシーンとか、脚本に“セリフを忘れる”と書いてあるシーンは、通常の何倍も何十倍も稽古をしているんです。
 そういうムダなところというか、そこにこそ真髄があると思うんです。ムダなことに心血を注ぐのが、エンタメの本質じゃないか、と」

ーー本当にそのとおりだと思います。

佐藤「“大の大人がやることじゃねえだろう”ってことをやる、ということですよね。真剣に」

 そして、われわれ視聴者は、気づくといつも佐藤さんに腹の底から笑わされ、恐怖に身震いし、胸打たれ泣かされるのだ。
 

■プロフィール
佐藤二朗(さとう・じろう
 1969年5月7日生、愛知県出身。96年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げし、全公演で作・出演。名バイプレイヤーとしてさまざまなジャンルのドラマ、映画に出演し、2008年に映画『memo』で監督デビュー。09年には初主演映画『幼獣マメシバ』で注目され、同時期に福田雄一監督作に出演、存在感を発揮する。近年は主演ドラマ『ひきこもり先生』(NHK)、大河ドラマ鎌倉殿の13人』(同)などが話題に。21年公開映画『はるヲうるひと』では原作・脚本・監督を務め、海外の映画祭で最優秀脚本賞を受賞。主演映画『さがす』(22年)では国内の映画祭で最優秀男優賞を受賞した。23年6月に書籍『心のおもらし』(朝日新聞出版)を上梓。