闘病の最中「完成させなきゃなっていう気持ちはありましたね」
佐野さんは、最新作『ALBUM』で歌唱とギター演奏のほかに、楽曲制作も担当している。そのひとつ『まどのそと』は、多発性骨髄腫の闘病中に手がけたものだ。俳優として、病気とどう向き合ったかについては、すでに多くの媒体などで語られているが、病室でも曲を作り続けていたミュージシャン・佐野史郎はどのような思いでそこに居たのだろう。
「前作がいい感じに仕上がったので、また作品を作りましょうという話になり、新型コロナウイルス禍前から『ALBUM』のデモ音源などを作り始めていました。コロナ禍でスタジオに人が集まって作業しにくくなったころ、僕の病気も発覚して。
命にかかわる病気だったから、正直なところ仕事に復帰したいとか、そんなことも考えられませんでした。けど、いつか『ALBUM』は完成させなきゃなっていう気持ちはありましたね。何でそう思ったんだろう……。作りかけだったからじゃないかな(笑)。
敗血症で死線をさまよっているときはさすがに弾けませんでしたが、高熱が続いてもギターは弾いていました。まだ自分ではうまく語れないことも多いし、理解しきれていないけど、ギタリストってきっとみんなそうだと思いますよ。
病院の個室にちっちゃなギターを置いといて、腕にずっと点滴の針が刺さっているのを“邪魔だなぁ”って思いながら、毎日、ボサノヴァのテンションコードの練習をしていました。難しいコードだからいまのうちに……みたいな気持ちもあってね。おかげさまでだいぶうまくなりました(笑)」
(つづく)
佐野史郎(さの・しろう)
1955年3月4日生まれ、島根県松江市出身。1975年、劇団「シェイクスピア・シアター」の創設メンバーとして参加し、1980年からは唐十郎氏が主宰「状況劇場」で活動。1986年、林海象監督のデビュー作『夢みるように眠りたい』に映画初出演で主演を務める。現在は、テレビドラマや映画、舞台、朗読など幅広い分野で活躍するほか、映画監督としても作品を発表している。1980年代半ばからはインディーズバンドを組んで、音楽活動を継続。2023年7月にリリースした佐野史郎 meets SKYE名義の『ALBUM』(コロムビア)は、2024年11月に『2024レコードの日限定盤 ALBUM』(FUJI)として2枚組アナログレコード化された。
◆作品情報
『ALBUM』
3300円 (税別3000円)
1.DREAM LAND
2.MELODY HOUSE
3.まどのそと 視聴
4.NOSTALGIA
5.KING KONG
6.悲しき熱帯
7.旅芸人の記録
8.彼岸花
9.ほほえみ
10.セントラルアパート
11.冬の街の夜空
公式サイト:https://columbia.jp/artist-info/sanoshiro/