思い出と盆栽の成長を重ねてみることで、より特別なものになる

 素朴な疑問として、数百年も生き続ける植物が1日水やりを忘れただけで枯れてしまうものだろうか……。そんな素人丸出しの問いにも、鈴木さんはていねいに真剣に答えてくれた。

「草木だとピンとこない方も、新たにワンちゃんを迎え入れるときには、その子の運命を引き受けるように感じますよね。毎日お世話しなければ体調を崩し、死んでしまうことも。盆栽は小さな鉢の中の命ですから、水やりはとても大切です。僕のところにはいま約2000鉢あり、全てが繊細な命で、水やりが不十分だったために一部の枝や葉が元気をなくしたり、それが原因で半年後に枯れてしまうことだってあります。
 水やりはお弟子さんたちの役目ですが、大切な盆栽をお任せいただいている責任が僕にはありますから、日々すべてのチェックを欠かしません。盆栽それぞれに個性がありますから、その特性を見極めて、その木が喜ぶことをしてあげたいんです」

鈴木伸二 撮影/有坂政晴

「そうそう、僕の子どもが小学生のとき、通っている学校の各クラスに、リンゴの木の小さな盆栽を寄付したことがあるんです。小さなリンゴも春に花が咲き、秋には実をつけます。子どもたちなりに一生懸命研究して、自宅に持って帰ってお世話をするので、子どもたちと一緒に6年間成長していくんですよ。すると、お父さんお母さんが子の成長と盆栽を重ねて見るようになり、子どもたちよりも夢中になっちゃうことも多くて。時間を重ねることで、その盆栽が特別なものになるんです」