ポケモン』の名前を聞くだけで、その特徴がわかる。『プリキュア』たちの名前には明らかに多く出現する音がある。『呪術廻戦』『鬼滅の刃』のキャラ名、『ドラクエ』の呪文にも法則が存在する。「にせたぬきじる」と「にせだぬきじる」の違いは小学生でも知っているーー。
 おもしろすぎる日本語を分析する言語学者・川原繁人の活躍は、まさに縦横無尽だ。『フリースタイルダンジョン』に出演し、慶應義塾大学で教壇に立つ彼の「THECHANGE」とはーー。

川原繁人 撮影/三浦龍児

Zeebraらとの異色のジャンルとのコラボレーション

  国際基督教大学(ICU)在学中の2000年に米・カリフォルニア大学に交換留学。卒業後の02年に米の大学院に進学し、そのまま米国の大学で職を得て、言語学を教えていた川原繁人さん。研究者としての輝かしいキャリアとともに、他ジャンルとのコラボレーションも目を引く。

ーーZeebraさん、RHYMESTERさん、晋平太さんなど、レジェンド級ともいえる日本のラッパーのみなさんと、川原さんはお仕事をご一緒したり、たいへん関わりが深い。こうなることは、予想されたりはしていたんでしょうか。

「してなかったです。まったくしてない。ラップは好きでしたけど、こういう形になるっていうのは、まったく考えもしていなかったですね。

 日本語ラップの分析を私が最初に始めたのは、国際基督教大学の学部生だった頃。通学に1時間以上かかっていたんですけど、その時にずっと聞いてたんです」

ーーどういったアーティストを聴いていましたか?

「今ではクラシックと言われるアーティスト、BUDDHA BRANDとかRHYMESTERとかキングギドラとかラッパ我リヤとかSOUL SCREAMとか、当時はアンダーグラウンドで活躍していた人たちですね。DJのコンピレーションアルバムも大好きでした。もちろん、メジャーデビューしていたスチャダラパーとかも聞いてましたけどね。

 大学生になってからラップを聞きだして、ちょっと韻のパターンとかが気になりだしてはいたんですが、本格的に分析しだしたのはもうちょっと後。私、アメリカの大学院に進学したんですよ。で、アメリカで大学院生活を送っていると、とにかく日本語が恋しかった。だからまた、ずっと日本語ラップを聞いていたんです。ずっと聞いてたら、これは分析したら面白いんじゃないか、という閃きがあって。

 今でも人生についてずっと悩みつづけていますけど(笑)、当時はまた独特の悩みがあって。アメリカの大学院って、世界中から優秀な頭脳が集まるわけじゃないですか。自分が優秀な頭脳って言っているのと同じになっちゃうんでちょっと恐縮ですけども、やっぱり世界のトップが集まるわけですよ。

 そんな中で「俺はやっていけんのかな?」という疑問が常に頭の中にありました。もちろん英語はアメリカ人のほうがうまいし、外国人でも私より英語がうまい人いっぱいいるし、数学もよくできる人いるし。そんな中で自分が個性を出していくってすごく難しいな、って悩んでいて。

 大学院の1年目はまだいいんですよね。授業取って課題をこなしていればいいから。でも、2年生になると、自分のオリジナルの発想がもとめられるわけですよ。宿題やって提出してほめられる、は終わるんです。

 2年生になったら自分自身で研究として何が面白いかを探さなければいけない。そこで、自分の個性をどう発揮したらいいかすごく悩んで。ある日、日本語ラップを言語学的な視点から分析したら、それは絶対俺にしかできないことだろうなって思ったんですよ」