言語学の役割は、なんとなく感じてやっていることを音声学や言語学のツールを使って伝える
ーーそれが一つのきっかけというか、チェンジのような。
「そうですね。そのあと、Kダブシャインさんの番組に呼ばれたんですよ。ダンジョン見て面白いなと思ってくださったんだと思うんですけど、Kダブさんが、ヒカリTVで24回分くらいかな。ヒップホップのエキスパートを招いて授業をやる、みたいな番組をやって、その中のひとりとして私も出演したんです。そこでKダブさんに私の韻の分析を披露したら“なんとなく感じてたけど言語化できてなかった”っておっしゃってくださったんですよ。
それを聞いて、「これだな!」と思ったんです、私。言語学の役割の一つは、声のプロの人がなんとなく感じてやっていることを、“あなたたちがやっていることは、たぶん、こういうことです”って、音声学とか言語学のツールを使って客観的にお伝えすることなんだな、と。
それまで、音声学って何の役に立つんですか、っていう質問にさらされてたから……それに対する答えを自分の中でいくつか用意してたんですけど、どうも言い訳っぽくて……でも、Kダブさんの言葉がかなり大きくて、それを大事にするようになりました。
それ以降は、大学の授業の中でも、Kダブさんの番組を学生と一緒に視聴しながら、Kダブさんがおっしゃったところを強調して紹介するようになりました。あとは、コロナ禍に入ってオンライン授業になっちゃって、辛い思いをしている学生たちのために、できるだけ楽しい授業をするように心がけるようになりました。日本語ラップを積極的に取り上げるようになったのも、それが理由ですね。
そうしたら、そんな授業になぜか学生としてゴスペラーズの北山陽一さんがいたっていう(笑)オンライン授業だったから、はじめは気づかなかったし、まさかゴスペラーズが自分の授業を取っているとは思わないわけですよ。ただ、私の声のプロがやっていることを学問的に分析するっていう姿勢を聞いて、北山さんがこの人は面白い、って思ってくれたのかもしれないですね。学期のはじめのほうに声をかけてくださって。それからは意気投合して、いろいろ一緒にやらせてもらうようになりました」