超えるものができる気がしなかった

ーーいまから20年くらい前ですね。

「そうですね。思いついてからは、本当にコツコツやったんですよ。1日1曲、好きな曲の韻をテキストファイルに落とし込んで、100曲たまるまで分析はしないって心に誓って、毎日毎日ね。ちょっと間違えて98曲になっちゃったんですけどね」

ーーそれが面白い研究成果になったということですか。

「なりましたね。学術雑誌にも載ったし、博士論文の一部にもなったし、色々な大学の講演会にも呼ばれたし。私の研究の一つの柱になったことは間違いないですね。2007年くらいかな、研究が終わって、世の中に成果を出し始めたのは。

 ただ、そのあといったん遠ざかるんですよ、日本語ラップの研究からは。
 別にラップが嫌になったわけじゃなくて、自分の研究を超えるものができる気がしなかったのと、就職とか転職とか他のことでいろいろと忙しくなっただけなんですけど。でも、2017年かな、Zeebraさんが慶応で授業をすることになったんですよね。

 現代芸術か何かの授業で。Zeebraさんを招待したのは私ではないんですけど、そういう話があるよっていう噂が飛んできて、私が処女作『音とことばのふしぎな世界――メイド声から英語の達人まで』(岩波科学ライブラリー)を2015年に出したわりとすぐあとだったんです。

 岩波の本でラップの分析を紹介してたから、Zeebraさんに川原を紹介したら面白いんじゃねえか、って言ってくれた先生がいて、引き合わせてくれたんですよね」