「七色の声を持つ男」との異名を持つ声色が持ち味で、声優、ナレーター、俳優、タレントとして幅広く活躍する山寺宏一さん。11年演じている『ルパン三世』の銭形警部役への思いとはーー。【第1回/全2回】

山寺宏一 撮影/河村正和

 正直、『ルパン三世』シリーズの仕事を引き受けるかは悩みました。『ルパン』のテレビ第1シリーズが始まったのは僕が小学校の高学年になったばかりの頃で、1話から夢中になって見ていましたから。

 それに前任者が偉大な先輩である納谷悟朗さん。オーディションに参加したものの、2011年に銭形警部の声優を引き継がないかというお話をいただいたときは「受けるのをやめようかな」という考えが一瞬、頭をよぎったほどでした。前任者が偉大すぎる作品はプレッシャーが大きいし、見ている人も違和感を抱きやすいじゃないですか。それに僕だって納谷さんの大ファンなんですから。

 いざ選んでいただいたあとも、「自分で大丈夫かな」という不安がありました。僕は比較的どんな声にも変えられる声優で、それが武器だとも思うんですが、銭形に関しては、モノマネっぽいことはできるとしても「じゃあこれから先ずっと、銭形幸一という役を生きられるのか」という葛藤がありました。

 そう、単なる真似では、その役を演じることにはならないんです。僕が抱える葛藤や皆さんの違和感がなるべく少なくなるまで、時間がかかるな、と思いました。

 銭形を演じて14年。皆さんに認めていただいたかどうかは分かりませんが、怖いからなるべくSNSは見ません。「今回はよかっただろう」と思い調べてみると、返り討ちにあう、ということはよくありますから。自信があった他の作品へのコメントを読んでいたときのことです。「山ちゃんの◯◯はいいけど、銭形はまだまだだな」と、書き込まれていました。こっちからしたら不意打ちです(笑)。

 僕が初めて銭形をやらせていただいたテレビ作品『ルパン三世 血の刻印〜永遠のMermaid〜』(日本テレビ系・11年)を、この前久しぶりに見たんです。ひどかっただろうなあ、と思って見始めたら、けっこう頑張っていたんです。