写真、文筆、絵画、書、音声とあらゆるメディアで表現し深化を続ける藤原新也さん。世界各地を旅した軌跡を写真や文章で表現してきた。1983年に出版され、ベストセラーになった著書『メメント・モリ(死を想え)』の発表から40年余を経て、今年5月に上梓した新作『メメント・ヴィータ』で現在の世界を語る。藤原新也の「THE CHANGE」に迫る。【第1回/全2回】

藤原新也 撮影/有坂政晴

――藤原さんの人生の中で、「ここで自分が変わったな」と感じる瞬間はありますか。

「20歳頃までたくさんの本を読んで、映画や演劇を数多く観ていたんだけど、ある時から創作されたものに興味がなくなってしまったんです。自分の足で旅をして現実の世界を知ることに興味が湧いたから。とはいえ、気持ちが柔らかい時代に接した映画には自分を変えてくれた感覚が残っています。

 たとえば中学時代に観た映画『黒いオルフェ』で初めてラテン音楽に接しました。それまでアメリカのヒットチャートに毒されていたところに突如としてラテン音楽が入ってきて、猛烈に自由を感じたんです。『黒いオルフェ』の終盤、子どもがギターを持ち、コルコバードの丘の上でギターを弾くシーンがある。音楽に合わせて女の子と男の子が自由に踊る。これが素晴らしかった。アナーキーな音、そして、アナーキーな踊り。当時、アナーキーなんて言葉は知らなかったけれど、自分が解放された感覚があった。『黒いオルフェ』に影響されてギターを始め、東京へ出てきたくらいだった。結果的にギター奏者にはならなかったけれど、肉体的な音楽によって体が変わる、あの感覚は今でも忘れられない」