「最初に抑えつけられていたからこその今」

――それは影響がありそうです。

「当時は“男は黙ってサッポロビール”ってコマーシャルが流れていたような時代ですから、無口なことは別に悪いことじゃない。家族も悪気なく言っていたんだと思います。だけど、おしゃべりな自分たちと“無口な伊知郎”で対比されていた。たしかに自分は意気地なしだし、幼稚園でもちょっといじめられたりしていた。それもあって幼稚園は行ったりいかなかったりだったので、“自分は無口で引っ込み思案でおとなしい人間なんだ”と。“そういうもんなんだ”と忸怩(じくじ)たる思いをしていました」

――「忸怩たる」ということは、本当はもっと自分を表現したかった?

「今思えば、抑えられていたけれど、本当はそうじゃない自分になりたいという思いが強くあった。だからこその、今かなと思います。幼稚園の頃から昔でいう加山雄三の『若大将シリーズ』みたいにお山の大将のような性格だったら、しゃべり屋にはなっていなかったと思いますね。最初に抑えつけられていたからこその今だと。僕の物語として、結果論としてそう思っています」

 そんな古舘少年だが、しゃべり屋として開花する以前の中学生のときからアナウンサーという職業にひそかな憧れを抱いていたという。