しゃべり屋、古舘伊知郎の誕生

――すごい。すでに古舘節です。

「それが1週間ぶっ続いての最終戦、ボールペンを凶器にするという打ち合わせをして、ひとりが相手のレスラーの額に刺して流血。先生が入ってきて“お前ら、いい加減にしろ”と。怒られたのを覚えています」

――それは怒られますね(苦笑)。

「額は一番血が出やすいんです。プロレス好きの集まりですから、加減を知ってやっていますし、今みたいに問題にもならなかったです。それをチャペルの中庭で“真っ白なチャペルを鮮血が真っ赤に染める、まさに血みどろの戦いが、繰り広げられている!”とか言って」

――盛り上がる様が目に浮かびます。

「オレを知らないやつも“面白いな”とか話しかけてきて。まさか自分がその後、プロレス実況をすることになるなんて思ってないわけですけれど」

――その時点で「オレ、しゃべりの才能があるな」とは。

「そんなことは考えてない。ただ“面白い、面白い”と言われるから、自意識がさく裂して自己顕示欲が満たされたというか、単純に“嬉しい”と。覚えているのは、背中にしびれるような快感の渦が回ったことです。報酬系のドーパミンでしょう。快感汁と言われるもの。恋愛と同じような気分の高揚感があるというか。高校2年生のとき、確かに、強烈にドーパミンが分泌したと思います」

 しゃべり屋、古舘伊知郎の誕生である。そしてこうも振り返った。

「今思えば、僕が過激実況をできるのは、家族の決めつけがあったからだと思います」