実在の事件を想起させるシーンはあくまで「入り口」
今作の主人公は、宗教2世。母親は入信する新興宗教に多額の金を注ぎ込んでいる 。
こうした境遇を見聞きすると、深く考える前に「逃げればいいじゃないか」と思ってしまうことがある。
「宗教2世の方が信仰から抜けたいと苦しんでいると知ったら、“やめればいいのに” と安易に思ってしまう人が多いのではないでしょうか。それでも、なぜ逃げないのだろうと考えたとき、最初は宗教のしきたりや内部の人から引き止められたり、あるいは脅されたりするのかな? と思ったんです。でも、宗教2世は、親や家族がすでにその宗教に入信しているわけです。だから、信仰を捨てるということは、同時に家族を捨てることになるのでは、と書いているうちに気がつきました。信仰は捨てたい 、この現状から逃げたいけど、家族は捨てたくない、という葛藤に苦しんでいるのではないか、と思ったんです」
宗教二世の登場人物が苦しんでいる様子を書くことで、「寄り添ったり、考えたりするきっかけになったらいいと思っています」と語る湊さん。だが、実在の事件を想起させるシーンはあくまで「入り口」。その先には、湊さんが本書に込めた思いがちりばめられているという。
(つづく)
湊かなえ(みなと・かなえ)
1973年、広島県生まれ。2007年『聖職者』で第29回小説推理新人賞を受賞。08年同作品を収録したデビュー作『告白』は第6回本屋大賞などを受賞し、売上累計385万部の大ベストセラーとなる。2014年、アメリカ「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のミステリーベスト10に、15年には全米図書館協会アレック賞に選出。2012年、『望郷、海の星』で第65回日本推理作家協会賞短編部門を受賞、2016年に『ユートピア』で第29回山本周五郎賞を受賞した。さらに2018年には『贖罪』がエドガー賞『ペーパーバック・オリジナル部門』にノミネートされた。
(作品情報)
『暁星』(双葉社)
著者:湊かなえ
発売中
定価:1,980円 (本体1,800円+税)
判型:四六判
公式サイト: https://fr.futabasha.co.jp/special/minatokanae/