国民的RPG『ドラゴンクエスト』シリーズのディレクターとして王道ファンタジーの最前線を走ってきた藤澤仁さん。彼がいま総監督として率いるクリエイター集団「第四境界」は、現実と虚構の境界を揺さぶる「日常侵蝕ゲーム」で世間を熱狂させている。
その最新作となるのが、現在発売中のミステリー小説『人の財布〜高畑朋子の場合〜』(双葉社)だ。フリマアプリで誰かの使い古した財布を購入するところから始まる本作は、本に挟み込まれたアイテムを使い、登場人物と実際にメールを交わすことで、読者自身が“当事者”として物語に巻き込まれていく、かつてない「読むARG(代替現実ゲーム)」となっている。
誰もが羨むディレクターの座という絶対的な安定を手放す――。その人生最大の転機、THE CHANGEを経て、藤澤さんは何を手放し、何をつかもうとしているのか。稀代のストーリーテラーが語る、創作の原点とエンターテインメントの未来に迫るロングインタビュー!(第3回/全5回)。
ARG(日常侵蝕ゲーム)という最先端のエンターテインメントを開拓し続ける藤澤さん。そのクリエイティブの骨格は、約20年にわたり身を置いた『ドラゴンクエスト』シリーズの開発現場で培われたものだ。
村上春樹に憧れ、「ものを作る人になりたい」と願った彼は、1998年、シナリオアシスタントとしてスクウェア・エニックス(当時はエニックス)の開発チームに参加する。そこで彼を待ち受けていたのは、日本ゲーム史の生ける伝説、『ドラゴンクエスト』の生みの親である堀井雄二氏だった。
「若い頃は、堀井さんが監督をして僕が実務的な作業をするというような役割分担でモノ作りをしていました。その中で、堀井さんが僕に叩き込んでくれた教えがあります。それは『ドラゴンクエストはシナリオじゃない』ということでした」