今は、効果的に捨てられるようになった

 6月に発売された最新作『はーばーらいと』(晶文社)は、伊豆周辺を舞台に、主人公の男の子・つばさと、その幼なじみでヒロインのひばりの交流を描いている。ひばりの両親が信仰する宗教のコミュニティ内にひばりが引っ越すことになり、ひばりはつばさに「ここから抜け出したい」と手紙を書く。

「昔だったら、宗教の行事とか書いて、楽しい部分も描いてコントラストをつけようとしたりしたと思います。

 そういうところを省いて、主人公のほうに寄ったことで、主人公の気持ちがより大きく出るようになったな、と。そういうのは、昔だったらぜんぶ詰め込んで“フラットな中から読者が拾い上げてください”みたいなプレゼンの仕方をしたんですけど。今は、効果的に捨てられるようになったなと思ってます。

 あとは、海水浴とかあえて入れなかったんですね。前だったら絶対に泳ぐ場面とか入れたかっただろうなって思うんです。今回はあえてそれを省いたことによって、暮らしてる人にとっての海とか、日常の中に見える海とかのイメージを強く出せたと思うので、それは良かったなと思います」

 1987年に『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞してから36年。小説家として、吉本さんに「変わらなかったこと」をたずねると「変わってないことはやっぱりなんだろう。小説がメインであとは副業、みたいなイメージが本当に変わってないです」とはにかむ。

 昭和、平成、令和と第一線で活躍し続ける吉本さんに小説を取り巻く環境の変化について質問すると、「ますます、数少ない人にとってでも、小説はすごく価値が上がってきたなと感じます」と真剣な瞳で言葉をつむいでくれた。