鬼才と呼ばれ、熱狂的なファンを擁する漫画家・新井英樹。『宮本から君へ』『ザ・ワールド・イズ・マイン』『キーチ!!』といった作品からは激情がほとばしり、痛みをともなって読者に降りかかる。「20年間の引きこもり」を経て、新たな境地を見出した新井さんのTHE CHANGEを聞いた。【第5回/全5回】

新井英樹 撮影/冨田望

 来年で漫画家生活35年。20年の引きこもりを経て、表に出た新井英樹さん。人間嫌いだったが、50歳をすぎて友達ができて、社会の暗部をえぐる作風から、シスターフッドへーーと、コントラストの強いCHANGEを経てきた新井さんだが、人生観の変化において特に「でかかった」と語ったのは、映画『横道世之介』の存在だったという。

新井「中学のときに頭がいいヤツから『新井は影響を受けやすいからな』とバカにされたことがあって。それで意地になって、元々本を読むのは好きだったのに、“哲学本系は一切読まない! 哲学は全部俺が作るから”というふうになってしまったんです。

 漫画を描きはじめてからも、“影響を受けることはかっこ悪い”という価値観がずっと続いていて、そんなときに『横道世之介』を見て、“影響を受けるってステキでしょ”ということを教えてもらって、めちゃくちゃ感動したんです。影響を受けやすいって、なんてかっこいいんだろうと。そこからまた世界が変わったんです」

 この映画との出会いは、思わぬ波及効果を生んだ。

新井「友人に飲み屋で引き合わされた人に、いかに『世之介』が素晴らしいかを何十分も話していて、その人に“ところで、あなたは何をされている方なんですか?”と聞くと、“『横道世之介』のプロデューサーです”と。

 そのあと彼が仕事の電話をしはじめて、その相手が真利子哲也。その繋がりで彼の『ディストラクション・ベイビーズ』を見に行って、そうしたら“実は『宮本』が撮りたいんです”と言われたんです」