創作意欲を刺激された、東急歌舞伎町タワー近辺の風景

 2024年2月28日にはニューアルバム『メトロスペクティブ』をリリースするアーバンギャルド。コロナ禍を経て、バンドはどのように変貌を遂げたのだろうか。

松永「今回のアルバムは、2022年頃から構想はあったんです。でも15周年のベストアルバム(※『URBANGARDE CLASICK ~アーバンギャルド15周年オールタイムベスト~』2023年1月25日発売)や、中野サンプラザ公演(※2023年3月31日に行われた『アーバンギャルドの十五周年記念公演”アーバンギャルドのディストピア2023 SOTSUGYO SHIKI』)の準備などでバタバタしていて先延ばしになってしまった。結局、ニューアルバムの制作は去年の夏くらいから本格的に始まったんです」

松永天馬 撮影/冨田望

――『メトロスペクティブ』というタイトルにはどのような意味が込められていますか。

松永「今の時代の日本は、ある意味停滞しているように見える。もはや不景気って言わなくてよいくらい、30年くらいずっと不景気だし。物価が上がるのに円安も続いている。世間的にも、非常に暗くて退廃的なムードが漂っている。

 でもこの退廃的でデカダンスなムードって、ある意味、戦後のアプレゲールみたいな感じと似ている。太宰治や坂口安吾が出てきたような時代背景みたいで、新しい文化を誕生させるんじゃないかなって思っているんです」

 アプレゲールとはフランス語で「戦後派」という意味。第一次世界大戦後と第二次世界大戦の戦間期における欧米や、第二次世界大戦後の日本で使用された言葉で、カルチャーなどの「新しい傾向」を指す。対義語はアヴァンゲールで「戦前派」という意味だが、奇しくもアーバンギャルドというバンド名にも通ずるものがある。

――時代の変革期に差し掛かっているのかもしれないですね。

松永「東急歌舞伎町タワー周辺の、あのディストピア(※ユートピアの反対、反理想郷、暗黒世界)っぷりに、創作意欲を刺激されるんですよね。もともとアーバンギャルドはアンダーグラウンドとオーバーグラウンドをクロスオーバーするようなグループ。

 これまでもアングラでありサブカルチャーでもありながら、メインカルチャーを志向する活動をしてきたけれど、今回、アンダーグラウンドなものを改めて考え直してみようって原点に立ち戻って、その象徴が地下文化で地下鉄なんですね。だからトンネルであったり、暗闇であったり、地下っていうものからアーバンギャルドがどのようにして地上に向かって走っていくかを見つめ直すような12曲のアルバムになっていると思います」