人って無理やり大人にさせられていく

 うちの母もそうで、年を取ってからカルチャーセンターに行って七宝焼とかいろいろなものを始めたりしていましたが、そういうことってすごく大切だなと。年をとったからいまさらって考え方をすると精神的に老けてしまう。まだまだ知らないことがいっぱいあるんだと自覚したほうがいいような気がしています。

 その母ですが、小説(『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』扶桑社)などでも書きましたが、僕が38歳のときに亡くなりました。そこで僕が喪主を務めまして、なんか喪主って大人だな、と感じました。

 その頃は、まだ喪主ってもっと大人がするものだという感覚があったので、人ってそういうふうにして、無理やり大人にさせられていくんでしょうね。

 僕の場合は、自分の中での死生観みたいなものはちょっと変わった気がします。それに親とか、妻とかが亡くなって後悔しないおじさんは、多分いないんじゃないですかね。

 あのとき、ああしてあげれば良かったなって、どれだけ親孝行していても心残りはあるんじゃないでしょうか。逆に親孝行している人ほど、そう思うんじゃないでしょうか。

 母がこの世を去った後に「こんな悲しいこと世の中にあるんだ」という感覚が湧き上がると同時に、なんか渋谷のスクランブル交差点を歩いている人たちすらも、みんな愛おしく思えたんです。みんな、こんな悲しい思いしながら生きているんだ、って。

リリー・フランキー(りりー・ふらんきー)
イラストやデザインのほか、文筆、写真、作詞・作曲、俳優など、多分野で活動。初の長編小説『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』は2006年本屋大賞を受賞し220万部を超え、絵本『おでんくん』はアニメ化。俳優としては、映画『ぐるりのこと。』でブルーリボン賞新人賞を受賞。また、『凶悪』(13/監督:白石和彌)『そして父になる』(13/監督:是枝裕和)では、第37回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞(『そして父になる』)優秀助演男優賞(『凶悪』)ほか多数の映画賞を受賞。

映画『コットンテール』
主演・リリー・フランキー、共演・錦戸亮木村多江高梨臨
イギリス・ウィンダミア湖を舞台に家族再生を描く、日英合作の感動作
2024年3月1日(金)
新宿ピカデリーほか全国公開