作中のDV描写には細心の注意を払った

 話の通じなさに背筋が凍るような、無自覚なDV加害者の描写は、とりわけリアリティがある。その描写には、弁護士時代の経験が生きている。

「私自身は離婚案件を担当したことはありませんでしたが、離婚やDVに関する研修は受けていますし、他の弁護士から離婚案件について話を聞く機会もありました。そこで、弁護士たちが相手方当事者に恨まれて殺されたり、嫌がらせを受けたりする事件が実際に発生していることも知りました。そういう加害行為に及ぶ相手方当事者は、今回の登場人物のような考え方をしていて。リアリティを持って書けたと思っています」

新川帆立 撮影/松野葉子

「もっとドロドロに書いてほしい」といった、人の不幸をエンタメとして楽しむ人にとっては、物足りないかもしれないDV描写には、細心の注意を払った。

「もっとドロドロとした現実はありますが、それをものすごくドロドロ書いても、読む方もしんどいんですよね。私は、“ちょっと修羅場を見てみたい”という幸せな人の興味本位のために小説を書いているわけではないので。現在進行系で悩んだり苦しんだりしている人たちが読んでいて、辛くないものにしたかったんです」

 離婚という人の不幸を、蜜の味にしない。新川さんと、主人公・松岡紬のまっすぐな目が、重なるようだった。

■新川帆立(しんかわ・ほたて)
 小説家。91年2月、アメリカ・テキサス州ダラス生まれ。弁護士として法律事務所での勤務を経て、20年10月、『元彼の遺言状』で第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞、21年1月より作家業に専念する。おもな著書に『競争の番人』シリーズ(講談社)や、『先祖探偵』(角川春樹事務所)、『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』(集英社)、23年6月『縁切り上等!-離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル-』(新潮社)ほか多数。
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