ネットフリックス感は参考にしたい

 1986年に「フレッシュジャンプ」(集英社)で連載していた『江口寿史の日の丸劇場』などの短編を収めた『寿五郎ショウ』(双葉社)、続けて『江口寿史のなんとかなるでショ!』(角川書店)と、ギャグ漫画短編集を刊行する。そして1992年には『江口寿史の爆発ディナーショー』(双葉社)で文藝春秋漫画賞を受賞。ギャグ漫画家として高い評価を獲得した。あのオシャレな絵であの下品なギャグというギャップがまた面白い。江口寿史の真骨頂でもある。でも今は、そのギャップが伝わりづらいという。

「今の時代は、わりとシャレが通じないんで、ギャグは難しいですね。言葉とかね、コンプライアンスとかそういうのもありますから。いろんな制約があって、いや、なかなか難しいですよ。「ギャグ=いじめ」と取られたりもするからね。でもギャグってものには元々そういう意地悪さとか差別的な側面もありますからね。今もまあ、ギャグをやりたい気持ちはありますよ。やっぱり、僕の基本はそれですからね。今の時代にも沿う笑いは必ずあるはず」

 ギャグ漫画に対する今の想いを語ってくれた江口さん。昔のものをずっと大事にしつつ、常に新しいものを取り入れてきた。

「ネットフリックス感っていうんですかね、あの刷新感というものはなんか、ちょっと参考にしたいですね。『サンクチュアリ-聖域-』っていう相撲のドラマをみてホントそう思いましたね。あれ、ちばてつや先生の『のたり松太郎』の完璧な刷新版ですよ。使い古された材料を使って完全に今のエンタテインメントに仕上げてる。けっしてこう新しいものに飛びつく感じではなくて、あの感じは取り入れるべきだなと思いました。

 完全に新しい世代になってるなあーっていうのは漫画を読んでいても感じるんですよね。『チェンソーマン』とか完全に新しい感じがするんです。もちろんあの作者もアニメや映画は好きなんだろうけど、それらに対するコンプレックスは一切ない。「漫画をやりたくて漫画をやってる感」を強く感じるんですよね。

 出版不況とか紙の漫画の今後は、とかの議論はありますけど、いやいやどうして漫画家の若い才能はもう次々に出てますよ。プラットホームが変わっても漫画はなくならない。面白いものは必ず読まれます。だから漫画もやりたいんですけど、ちょっと考えたら古いって言われるのが一番嫌だからなあ(笑)。まあ古いんですけどね。古いなりに新しい人たちも楽しませるものができたらいいなと思うんです」

 新しいものへのアンテナを常に張り続ける江口さんだけに、誰もが驚くようなまったく新しい作品を描いてくれることを期待したい。

江口 寿史(えぐち ひさし)
1956年生まれ。熊本県出身。1977 年「週刊少年ジャンプ」にて『恐るべきこどもたち』で漫画家デビュー。『すすめ!! パイレーツ』『ストップ!! ひばりくん!』などのヒット作を生み、斬新なポップセンスと独自の絵柄で漫画界に多大な影響を与える。80 年代半ばからはイラストレーターとしても活躍。漫画連載当時のファンから、イラスト作品や CD ジャケット画で知った若い世代まで、幅広い支持を集める。近年は全国で積極的にイラスト展を開催するなど、幅広い分野で活躍を続けている。