人生って無駄なことは何もない
その頃から役に対しての向き合い方も変わってきた。
「プロフェッショナル、例えばカメラマンに会ったら、撮影の時はカメラマンはどういう眼差しで見ているのかといった所作を習得し、自分の引き出しに入れておいて、次にカメラマンのオファーが来たらそれを活かそうと考えるようになりました。そういう意味では人生って無駄なことは何もないんです。やっぱり僕ら俳優が役を楽しまないとお客さんにもその楽しさは絶対に伝わらない。その役のことを一番に考えているのは監督でも誰でもない、その役を演じる俳優本人ですから。だから、どんなに悪役でも似ている部分は無いか、何かを感じられるものはないか、共感できるものはないかってことを探しているんです……」

プライベートでは現在59歳。来年、還暦を迎える。
「学生時代の友だちはみんな言うんですよ、“いいな~、賢は定年が無いから”って。でも、俳優っていうのは長くやっていれば良いっていう仕事じゃない。若くても良い俳優はたくさんいますし。これくらい齢を重ねてくると、やっぱり何も無ければ長くやってこれないとも思うし。ただ俳優という仕事はオファーさえあれば、それぞれの年齢に応じた役柄というものがあり、続けられるんです。舞台でいうと俳優を何十年やってようがデビューして半年だろうが、板(劇場)の上に上がってしまえばコンデイションは同じなんです。良いか悪いか。面白いか面白くないか。ハッキリしている世界なんです。そういう仕事だと思うので還暦だからどうとかって意識することはあまりないですね。それにしても、みなさん還暦の話が好きですよね(笑)」
還暦ということとは関係なく毎年、年末に行うことがあるそうだ。
「年末に振り返った時に、“今年はあの仕事があって良かったな”と思えたら、良い一年だったと思えるんです。その仕事のバジェットが大きかったとか、そういうことではなくて、あの演出家や俳優と一緒に芝居が出来て面白かったなっていうものが一つでもあれば、その年は良い一年だったなって思えるんです。だから今年の年末には間違いなく『反乱のボヤージュ』の舞台を演じられて良かった、良い一年だったと思えるでしょう」