「自分の中のやりたいことと、依頼してきた人の欲しいものの折り合いをつけていった」
「ひょんなことから評価されて」の一つが『星のカービィ』(2001年~2003年オンエア)。アニメ音楽を担当し、その後、ゲームでその音楽が広まった。
「僕の中では『カービィ』がどれぐらい成功したかわからないんだけど、その後、ゲームで使われてから、ある曲だけすごく有名になって、“これが好きだ”って言ってもらえるようになっていったんです。“大ヒットさせよう”とか思って作ってるわけじゃないんですよね。父の『宇宙戦艦ヤマト』も同じじゃないでしょうか。
ヒットさせるならこの感じで、ということではなくて、自分の中のやりたいことと、依頼してきた人の欲しいものの折り合いをつけていっただけなんですよね。そうしたら、結果的に評価してもらえる。『ヤマト』もすぐヒットしたわけじゃなくて、3~4年してから火がついて、そういう意味では、『マツケンサンバⅡ』もけっこう似たような感じ。最初からヒットを狙え、というのではなく、結果的に……というのは僕にとってすごくラッキーだなと思ってることの一つですね」
『マツケンサンバⅡ』の大ヒットは制作してから10年後のことだった。元々は松平健さんのショーのエンディングを盛り上げるために作った1曲。1994年の制作から時が経ち、じわじわと話題になり、2004年にCD化、という流れになった。
「話ができすぎてるなと思いました(笑)。曲ができたときには、“これすごくいい曲じゃないか”、“なんでCDにならないのかな”という思いはあったんですけど、まぁそういうもんだよな、とそのままにしていた。
そうしたら、10年後に“CD化したいのですが、マスターテープありませんか?”と連絡があって、『マツケンサンバⅡ』が話題になってる、という巷の噂は本当なんだって思いましたね。正直、とても変な感じがしました。魔法使いがちょっと横で『夏の夜の夢』のような、世間に魔法をかけてんじゃないか、って」
松平健さんの存在感、楽曲の華やかさ、真島茂樹さんの振り付けと腰元ダンサーズ、インパクト大の衣装など、様々な要素が集結して時代を代表する1曲となった。そして、ヒットから20年あまりが経つ今も様々な音楽番組やイベントで欠かせない曲となっている。なぜこんなに長く愛されるのか、その理由はなんだと思われますか?と尋ねると、笑いながら答えてくれた。
「いや、あのときかけた魔法がまだ続いてるのかな、という無責任な感想はありますけど(笑)。冷静に考えて、そこまでいい曲かどうかと問われると自信がないけど、でも、今、音楽をデスクトップミュージック、DTMでやってる人たちにはすぐにはこういう曲は作れないよ、ということは、対外的には申し上げてます。
一応クラシックの基礎から学んで、バッハは何を学んだのかを知りたくて探って、じゃあバッハの先生は誰なんだという本質的なところに僕は興味があって、掘っていったというのがあるから、ああいう娯楽作であっても、ちょっとそんな考え方がにじみ出てる部分がある……んじゃないないのかなぁ、と僕は思いたいのね(笑)。それが長く愛されてる理由だといいな、って」