アレンジ希望者にスコアを配る思い

 今でも多くのオーケストラやアーティストが『マツケンサンバⅡ』を演奏したいという申し出は後を絶たない。

「アレンジをしたい、という人みんなに僕は、僕の書いたスコアを配ってるんです。“リコーダー4本でアレンジしてみたいんですけど”みたいな話にも、“これ参考にしてください”って進呈してるんですよね。“悪用だけはしないでね”という感じで(笑)。

 結局そのスコアを見た人の1%でもいいから、“この人は、メロディがこうきたとき、ベースラインをこうしたんだ”、“このときに2番ホルンのこの音にしてるのはこういう理由かもな”と気付いてもらえたらいいなと思ってるんです。スコアって全部理由があって編むものなんです。

 パッチワークじゃなくて、編んでる。編むってことは生えてるってこと。生えてるってことは生きてるということで、どこかに行きたがってるわけですよ。そこには葉っぱもあるし、根もあり、蔦もある。全部生きていてどこかに行きたがってる。つまり訳があってこう言うふうに絡み合ってるんだ、ということを、スコアを見ればわかると思うんです。そこを入口に大いなる刺激を受けて、その人たちの人生を変える可能性があったらいいな、というそういう思いを込めてます」

宮川彬良 撮影/三浦龍司

「続いていることはそう簡単には超えられないんですよ」と話す宮川さん。バッハ、ベートーヴェンから続くものの強みを信じることが音楽制作に貫かれている。

「僕はどちらかというと、リベラルな家庭で育ったし、昔の言い方、保守・革新でいえば、革新だったと思ってるけど、気がついてみると考え方はめっちゃ保守的なんだよね。バッハ、ベートーヴェンからの保守本流というか。急に流行ったからということで、世界を全部変えるって、そんなことしたら地図は壊れちゃう」

『マツケンサンバⅡ』の中には、クラシカルな保守本流なものと同時に、子どものころ、テレビで『ゲバゲバ90分!』を楽しんだ宮川さんのテレビっ子的な一面も感じ取れるのですが、とうかがうと「あー確かに。あれ、テレビっぽい」と客観的に答えてくださった。

「確かに音像自体がテレビ的。僕の中にはそういうテレビっ子の面は確実にあるのね。そこはあるかもしれない」

 自らを「テレビっ子」だったと話す宮川さんが2003年から10年にわたり携わったEテレの『クインテット』は、まさにテレビと音楽を愛する宮川さんの様々な思いが詰め込まれている。

みやがわ・あきら
1961年2月18日生。東京都出身。作曲家、編曲家。舞台やアニメ、映像作品など数多くの音楽を担当し、蜷川幸雄演出作品の舞台『身毒丸』と舞台『ハムレット』で読売演劇大賞のスタッフ賞を受賞。2003年〜2013年にかけてNHK教育テレビの番組『クインテット』に出演し、好評を博した。父は作曲家の宮川泰。

Shake&Speare!!Stage『ナツユメ』
原作:ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』(松岡和子 訳)
音楽:宮川彬良
脚本・演出:木村龍之介

2025年6月6日(金)~6月8日(日)
KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
公式サイト:https://www.natsuyume2025.com/