アレンジした曲のスコアは処分されるのだが……
父・宮川泰さん同様に、そして父・宮川泰さんとはまた違うアプローチでテレビと音楽の間を軽快に駆け抜ける宮川彬良さん。テレビの中の音楽とは。
「毎回毎回、テレビの音楽番組でアレンジすると、それを写譜屋さんが書き写すわけ。そうすると僕の書いたスコアから40人分の譜面を分けて作ってくれて、1冊のスコアがこんなパート譜の山になる。『紅白歌合戦』なんかだと、それが40曲でしょ。パート譜の山。でも、大晦日を明けたらその山はそのまま全部焼却炉に入っちゃう。
そんな中でも、アレンジ良かったよな、というものはあるわけでね。前に、堀内孝雄さんが“あの番組でやった、あのアレンジ、気に入っちゃったんで使わせてください”って言ってくれたことがあって。そうなると、焼却処分しなくて済む。いいアレンジをするとエコなわけだよね(笑)。
面白いことをちゃんと作っていると、エコになる。次から次へと捨てて次のものへ、っていうより、もうちょっと落ち着こうよって。このままいったら大変なことになっちゃうよって思うんですよね」

「クラシックなんて……」と思っていた少年が、今音楽家としてやはり立ち戻るのがバッハ、ベートーヴェン。
「僕は別に学者としてそれを発表したいわけではないけど、やっぱり音楽を生き物として取り扱ってるとそうならざるを得ないということなんじゃないかな。なんとなくね、今みんな杭が浅いような気がするんです。番組でも楽曲でもプロジェクトでも。全部杭が浅い。僕の知ってる杭は1500年前の杭だから(笑)。そういう時代から続いているものだから、それは強い。どこに根っこが生えてたかを手放しちゃうとえらいことになっちゃうよ、っていうのは感じてるんですよね」
様々な角度からお話をうかがい、最後にスミマセン……とおずおずと髪型の話を振った。「なぜこういう髪型に?」と。
「あはは(笑)。髪型はね、『クインテット』が始まる2年ぐらい前かな。『フルーツサンデー』という番組があったんですよ。日曜の朝、NHKのBSの番組。それにアキラ兄ちゃんという役で出ないか、とオファーがありまして。これはテレビっ子の僕としては、“よし、出番だな”と思って、そのときに10年くらい通ってた美容院で“なんでもいいから目立つようにして”とお願いしたらこうなった(笑)。できあがってみて、これか、みたいな」
今となっては、黒髪のボブに、金髪のメッシュという髪型が宮川さんのイメージになっている人も多いのではないだろうか。それ以前はシンプルに、長髪を後ろで結ぶというスタイルだったいう。
「考えたら、『フルーツサンデー』が終わったところで元の髪型に戻すっていう選択肢もあったんだよね。それは気付かなかったな(笑)。そのままにしちゃった。
でもね、その流れがあったから『クインテット』はあの形になったんじゃないか、って思うんですよね。だって、よく見ると、シャープくんも、アリアさんも、個性的な髪型でしょ。確か最初のシノプシスには<その5人は、なぜか髪型にそれぞれ特徴がある>って書いてあったんです。
つまり、僕の髪型がキャラクターに波及してるというか、生まれるベースになってるんだよね。そういう意味では、『フルーツサンデー』が終わった後、元に戻すという選択肢を思いつかなかった僕に、今、感謝したいね(笑)」
みやがわ・あきら
1961年2月18日生。東京都出身。作曲家、編曲家。舞台やアニメ、映像作品など数多くの音楽を担当し、蜷川幸雄演出作品の舞台『身毒丸』と舞台『ハムレット』で読売演劇大賞のスタッフ賞を受賞。2003年〜2013年にかけてNHK教育テレビの番組『クインテット』に出演し、好評を博した。父は作曲家の宮川泰。