一般にはあまり知られていなかった南インド料理専門の飲食店『エリックサウス』を大成功に導き、現在の若い人たちを巻き込み、本格カレー人気の流れを作る一翼を担った稲田俊輔さん。その稲田さんが今、ハマっているのが使う食材の種類をギリギリまで削ぎ落とした「ミニマル料理」。南インド料理からミニマル料理へ、大胆な「CHANGE」を見せる稲田さんに、これまでの料理の変遷を聞いてみた。

稲田俊輔 撮影/三浦龍司

実はシンプルなインド料理

 取材場所に指定されたのは、渋谷にある「エリックサウスマサラダイナー神宮前」。店に入ると、ちょうど昼営業が終わる少し前で、稲田さんは当たり前のように厨房で働いていた。仕事ではあるのだけれど、その姿はなんとも楽しそうだった。

 稲田さんといえば、やはりカレーのイメージが強いだろう。そんな稲田さんがミニマル料理を提唱し始めた。ミニマル料理とは、たとえばナスだけを水としょうゆだけで煮るというような、食材と調味料をギリギリまで削ぎ落とした料理だ。多種のスパイスを使うカレーから、なぜミニマル料理に向かったのだろうか?

稲田「自分の中では完全に必然だったんですよ。インド料理を知らなかったら、魅力に気づかなかったと思います。自分が和食のお店をやっていたときは、いかに旨みを重ねるか、いかにお客さんがひとくち食べた瞬間に“うまっ”てなるかを追求していたんですが、インド料理を知って、自分が今まで出汁とか発酵調味料を使っていたのは、なんだったんだろうと」

 日本で一般に食べられているインドカレーは、かなりローカライズされていて、さまざまな調味料が使われているが、本場インド、特に南インドでは違うようだ。

稲田「南インドの料理を極めれば極めるほど、より土着的なことを知るほど、どんどんシンプルなものが出てくるんですよ。“ターメリックと唐辛子しか入っていないの?”というような、ナスしかはいっていないとか。これは虚を突かれましたね」