高級レストランはミニマル料理だった

 食について話し始めると、まさにマシンガントーク。稲田さんがミニマル料理へ向かったきっかけはまだあった。

稲田「外食もちょっといい店、割烹とか、カジュアルレストランよりちょっといい、1人1万円みたいなところに行くと、料理がめちゃくちゃシンプルだったりするんですよ。野菜の付け合わせも塩とオリーブオイルしか使っていない。肉も焼いてマスタードを置いただけみたいな。もちろん料理によってはすごく手間をかけているものもありますけど、ハイクラスな世界の基本って、実はすごくミニマルなんですよ」

 日本の昔の家庭料理、そして南インドの料理と高級レストランの料理が、稲田さんの中でつながった。

稲田「日本人はかつて、こんないいものを食べていたのに、今では外食に影響を受けてごちゃごちゃした家庭料理を食べている。ちょっともったいないんじゃないかなと思ったんです。もっと世の中に知られたほうがいいと思って、最初は半分、ネタのつもりでミニマル料理をツイッターであげたら、すごく評判がよかったんです。“やってみたらおいしかったです”って反応が来て驚きましたね。そこで手応えがあったんで、レシピ本を出すことになったんです」

 おいしいものへの飽くなき探究心を持つ稲田さん。彼にとって、変化とは必然なのである。

プロフィール
稲田俊輔(いなだしゅんすけ)
料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学を卒業後、飲料メーカー勤務を経て、円相フードサービスの設立に参加。和食、ビストロ、インド料理など幅広いジャンルの飲食店を25店舗、展開。2011年には東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店し、日本のカレー業界を一変させた。ナチュラルボーン食いしん坊を自称し、著書も多数、手掛ける。近著は『ミニマル料理: 最小限の材料で最大のおいしさを手に入れる現代のレシピ85』(柴田書店)、『「エリックサウス」稲田俊輔のおいしい理由。インドカレーのきほん、完全レシピ』(世界文化社)、『食いしん坊のお悩み相談』(リトル・モア)