「いい具合に混じり合って、良い方向に向かった」ゆずと寺岡呼人だからこそ起きた化学変化

 このときもやはり、寺岡さんは「できない」と断らなかった。引き受けた仕事がもしかして失敗するかもしれない……と、怖気づいたりしなかったのだろうか。

「バンドメンバーになったときもそうでしたが、自分から動いたというよりは、“誰かから突然与えられたことで、自分が成長してこられた”と感じるんです。
 ただ、いま思うとゆずの2人には大変な思いをさせたかなと。僕はプロデューサーの定石を知らないわけですから。いまのようにネットで何でも調べられる時代だったら、“寺岡さん、そんなことも知らないんですか?”とあきれられていたでしょう。
 若くてがむしゃらな2人と、こっちのめちゃくちゃ加減がいい具合に混じり合って、良い方向に向かったのかなと思います」

※本人のインスタグラム@yohitoteraokaより

 寺岡さんは、自分の成功を幸運だ、恵まれているという。確かに、音楽シーンではしばしば運も重要と言われるが、ゆずがあれほどの大きな成功を収められたのは、単に幸運だっただけではないはず。2人のずば抜けた才能と、それを引き出す寺岡さんのプロデュース能力がうまくかみ合ったからこそだったのだろう。

「特にレコーディングはかなり工夫しました。当時の彼らは路上で自由に弾き歌ってきたため、歌ったり演奏したりするスピードが一定ではありませんでしたが、その自由さこそが魅力だったので、レコーディングではガイドとなるリズム音、いわゆる“ドンカマ”を使わないことにしたんです。
 後日、2人が歌ったボーカルに合わせて、スタジオミュージシャンにオケを演奏してもらったのですが、ドンカマなしで歌ったからリズムが揺れているんです。演奏のプロからすると、それってすごく難しいことだというのはわかっていたので、僕は事前に2人の歌を何度も聞き返して“ここはちょっともたる(もたつく)”とか“こっちは少し走っている”と、自分が気付いたところを譜面に書き込んで、ミュージシャンの皆さんに渡したりしていました」