体が軽くなったら表に出られるようになった

新井「引きこもりの期間に人間嫌いになって、これはマズイと思って。俺、人間に会ってないじゃん、表に出なきゃダメだ、と気づいた。まず、2年間でついた体重30キロくらい落として動けるようになって、体が軽くなったら表に出られるようになったんです」

 はじめて1人で飲み屋に入ると、どの店に行っても「50過ぎだと最年長だけど、そこでは住民たちのほうが先輩だから」といい、若い子たちとお互いの身の上相談のやりとりをするようになったという。

新井「人を好きになろう、というわけじゃないけど、勉強し直しという感覚かな。同時期に、山田太一さん原作の『空也上人がいた』(2014年、小学館)を描かせてもらって。

 それまでは、人を殺すようなヤツを“こんなにヤバいヤツがいるぜ”って描いていたんだけど、人が死ぬことは当然だとして、“なんとかいい最期を迎えさせよう”という命の現場にいる人たちにとっての、命の置き方の凄みを描きたいって気づいた。

 そう思うようになったら、なんだか、会う人会う人がおもしろくて、濃くて、“俺が漫画で描いていた人間って薄いな”と思って」

 外に出て出会ったのは、みな、新井さんの漫画を知らない人たちだったという。