ポップスもクラシックも両方好きだった

 クラシック音楽だけでなく、刑事ドラマの痛快な劇伴や、当時世の中を席巻していた歌謡曲もまた全身に浴びていた青春時代が新垣さんにもあった。クラシック音楽と昭和のテレビから聴こえてくる音楽の違いに戸惑いはなかったのだろうか?

「テレビでアニメを観たり歌謡番組を観る中で接する音楽と、ピアノ教室で習う音楽を、自分の中で違うものだっていう感覚でそれぞれ接してはいました。

 クラシック音楽は何かやっぱり身近なものじゃないっていうような感覚だったと思いますね。クラシックは実際に外国であるヨーロッパの、さらに時代も違う世界のものですが、テレビで接する音楽は自分たちの身近な日常から生まれてくるものですから。

 そうやって両方を聴いていくなかで、ドビュッシーやストラヴィンスキーの音楽に出会い、そちらにグッと傾倒していったという感じです。その頃周りでは『機動戦士ガンダム』が流行っていたんですが、私はそれを通過しなかったんですよ。

 それはちょっとこじつけて言うと、自分にとってはその時『ガンダム』ではなくてストラヴィンスキーがいたから、ということだと思うんですよね」

 新垣さんは1970年生まれ。同世代の小学生たちが『機動戦士ガンダム』に夢中になって少年時代を過ごしていたころ、ストラヴィンスキーに魅了されていたのだ。

「そのあとで、ストラヴィンスキーの現代音楽の流れから当時流行していたYMOは通過したんですが、『ガンダム』の時にはストラヴィンスキーのほうをとって、みんなが知らない音楽を聴いている特別感みたいなものを楽しんでいました。

 でもクラスのみんなと一緒の時なんかは、例えば西城秀樹の曲とかを修学旅行のバスの中でシャウトしながら歌ってみたりはするんですよ。結局両方が好きだったんですよね」

新垣隆 撮影/片岡壮太

 ヨーロッパの歴史を感じさせるクラシック音楽の音色と、全身の血が沸騰するような興奮を与えてくれる日本の歌謡曲、その異なる世界を行き来することが、新垣さんの音楽世界を豊かに広げていく変化――「THE CHANGE」となっているのかもしれない。

新垣隆(にいがき・たかし)
1970年9月1日、東京都清瀬市生まれ。桐朋学園大学音楽学部作曲科を卒業すると、同大学の音楽学部の作曲専攻にて非常勤で講師を務めるかたわら、桐朋学園大学院大学でも特任教授を務めた。クラシック音楽の演奏家、作曲家としての活動のほか、映画や舞台、CMなど多岐にわたって楽曲を提供。2018年からは、川谷絵音(ゲスの極み乙女。/Indigo La Endなど)吉本興業所属のお笑い芸人・小籔千豊らと組んだバンド「ジェニーハイ」のメンバーとしても活動している。

■新垣隆&奥村愛 デュオ・リサイタル ~名曲の演奏と楽しいトークで、珠玉の時間を~
2024年1月21日、紀の川市 貴志川生涯学習センター かがやきホールにて
https://www.city.kinokawa.lg.jp/shougai-g/2023-1108-1816-58.html

■新垣隆氏が作曲・編曲した「交響的断章-『連祷』の主題に基づく」を世界初演。
​2024年1月21日、豊後大野市総合文化センターエイトピアおおのにて