人生90歳としたら、残りちょうど半分

──塙さんにとって、監督をやったことの意義は?

「漫才をやるために監督をやったというのが大きいですね。やっぱり歳取ってくるとネタがそんなに作れなくなると思うんですね。歳取ってきて、それなりの経験を積むと失敗もしなくなるし、自分の弱いところがどんどんなくなってくるじゃないですか。
 例えばですが、2018年に刑事ドラマ『警視庁・捜査一課長』に出させてもらった時に酷評の嵐だったんです。でも結果としてはそれをネタに転換できて、ネタがひとつ増えたなって感じで、だいぶ漫才が面白くなったんですよ」

──現在、45歳。間もなく46歳を迎えるが、40代になってからの違いは?

「ムチャクチャありますよ。芸人って、20代、30代の頃って自分の技術や面白さを見せようと尖っちゃったりするんですけど、歳取ってくると、そんなことよりも、今日来てくれたお客さんが笑って帰ってくれれば良いやっていう気持ちがでかくなると思うんです。ほんとに単純に人間力じゃないけど、人の為みたいなところがないと新しいネタも作れなくなる……というのがなんとなくわかってきた。そこが一番大きいですかね」

──人生を達観する、ということですか?

「人生90歳としたら、残りちょうど半分じゃないですか。そうすると、いままで親が言ってたことがすごくわかる様になってきた……というか、親の言ってることってホントにその通りだなって思うようになってきたんですね。
 例えば、本をもうちょっと読みなさいとか言われたけど、そういうことってすごく大事だなって思うことが多くなってきて。それは親から言われたというよりも、自分がこの齢になってほんとにそういうふうに思ってきたから、親も同じように思っていたんだろうなって思うんです」

──ニュアンスとしてはちょっと違うかもしれませんが、贖罪みたいなことですね。

「そうですね。最近は年齢のせいか脂っこいものが食べれなくなってきて……」

──そっちの食材じゃなくて罪滅ぼし的な意味合いのある贖罪の方ですよ。(とツッコミ)

「あ~、そういうことですね。やっぱり人をいじるという発想が一番メインに来ちゃうところがありますからね。そういう意味では、いじられる人に対しての罪滅ぼし的なことなのかもしれませんよね」。

 漫才協会会長である前にひとりの芸人として、今後、どのような話術を見せてくれるか。それを確認するためにも東洋館に足を運んでみたくなった。

■塙宣之(はなわ・のぶゆき)
1978年3月27日、千葉県生まれ。A型。T173㎝。2000年に大学の後輩・土屋伸之と漫才
コンビ「ナイツ」を結成。2003 年、漫才協団(現・漫才協会)・漫才新人大賞受賞。2008
年、お笑いホープ大賞THE FINAL優勝、NHK新人演芸大賞受賞。2008~10年、3年連
続で「M-1グランプリ」に3 年連続で決勝進出。2022 年度、第39 回浅草芸能大賞 大
賞受賞。2019 年に出した著書『言い訳 関東芸人はなぜM-1 で勝てないのか』が発行部
数10万部を突破した。近著『劇場舎人 ずっと売れたい漫才師』(KADOKAWA)が発売中。 

『漫才協会THE MOVIE~舞台の上の懲りない面々~』
監督:塙宣之
出演:青空球児・好児 おぼん・こぼん ロケット団 宮田陽・昇 たにし U字工事
づっち 大空遊平 はまこ・テラこ 錦鯉 ビートきよし(特別出演) 爆笑問題(友情出
演)サンドウィッチマン(友情出演)
ナレーション:小泉今日子/ナイツ 土屋伸之
3月1日(金)より全国ロードショー
配給:KADOKAWA
ⓒ「漫才協会 THE MOVIE ~舞台の上の懲りない面々~」製作委員会