旅行先で読んだ本がその先の人生の手がかりに

ーーそのころは「小説家になりたい」と思う暇もない印象を受けます。

「いやもう、日々の作業に必死でした。さすがにちょっと疲れてきちゃって。プロデューサーの中には、夜中に“明日の朝10時までに企画ない!?”という電話をかけてきたり、夕方に“明日までにやって!”と連絡してきたりする方もいて、夜までに本屋さんに行って買って読んで企画書を書いて……ということもありました」

 企画書といえど、そのページ数は2、3ページで済むこともあれば、さらに上層部への提出となれば10ページ、50ページと増えていく。その労力は想像を絶する。

「そのうち、電話が鳴るだけでつらくなって、心臓がキュッとなるようになってしまったんです」

 身体からのSOSを感じ取り「これはちょっとヤバいな」と自覚した原田さんは、すぐに自分をケアするべく行動に出た。

「“風邪をひいた”とうそをついて、1週間休んでインドネシアのバリに旅行に行きました。本当に久しぶりに休んで、海を見ながら、保坂和志さんの『カンバセイション・ピース』(新潮社)という純文学の本を読んだんですよね。
 同居する5人くらいの男女が、ずっとだらだらおしゃべりしているような話で。もう久しぶりにドラマとまったく関係のない本を読んで、ドラマにはなりにくい話なんですが、それを読んだときに“私、こういうものが書きたい!”と思ったんです」

 それからテレビ局で作業をする自分に違和感を覚え、「辞めたい」と思うようになったが、すぐに言い出すことができなかった。ひらめいてから2か月ほどたったころ、ようやく「辞めます」と伝えることができたという。だが、それも不発だった。

「伝えたのが11月で、すぐに辞めさせてもらえなくて。年が明けてすべての仕事が片付いたころに"あと3年くらい頑張れば、絶対に好きなものを書かせてあげるから”と言われましたが、それでも辞める意志が変わることはなく、ようやく1月に辞めることができました」