「すごく怖い人たちなのに、スタイリッシュ」

 覆面作家の雨穴さんは、映像作品などで姿を現すとき、全身黒装束に白い仮面をつけて登場する。そこで、こんなことを聞いてみた。

――雨穴さんの仮面姿は、どこか『HUNTER×HUNTER』にも出てきそうな見た目ですよね。

「それは初めて言われましたけど、意識はしていません。ユーチューバー活動を始めるにあたって、作品を際立せるために、自分自身の情報量を少なくしようと思って、黒装束をベースにした格好になりました。

 ただ、ビジュアル面でいうと、『HUNTER×HUNTER』のヨークシン編に登場する“幻影旅団”に惹かれます。誰がというわけではなく、幻影旅団が並んでいる姿がすごく好きで、人物も服装もバラバラなのに、並んでみると統一感がある。それに、すごく怖い人たちなのに、とてもスタイリッシュ。いろんな要素が混ざっている感じが、とてもいいです。

 私は、短い映像作品を作るとき、怖いだけで終わらないように意識しています。一瞬で人の興味をひくためには、怖いけどかっこいいとか、怖いけど滑稽だとか、複数の要素が必要なんです。その点では、通じるものがあるかもしれません」

 素性を一切明かしていない雨穴さん。今回のインタビューでも終始、暗闇の画面越しの会話だったが、立ち入った質問にも真摯に受け答えするその姿勢からは、その人となりが伝わってくる。

最新作ではAI(人工知能)が題材

 今や人気作家となった雨穴さん。そのもうひとつの顔が、チャンネル登録者数100万人超えの人気ユーチューバーだ。現在も動画投稿を続けていて、その最新作『【科学ホラーミステリー】 変なAI』は、再生回数300万回超えの大ヒットとなっている。

――なぜ、AI(人工知能)を題材にしようと思ったんですか? 

「昨年から、AIを使ったモノづくりが世間で脚光を浴びるようになったので、それに一切触れないのは違和感があるなと。それに、今後の作品にAIを用いる用いないは別にして、一度は経験して、自分の中でAIに対するスタンスを明確にしておかないと、表現に説得力がなくなるなと思ったんです。

 そこで、画像生成AIが作ったものを題材にした、ホラーミステリー動画を作ってみました」

――小説『変な絵』の作中に登場する絵は、雨穴さんご自身が描いたと聞きました。それに対して、今回の動画で題材となる画像は、AIに作らせてみた。ご自身の中でなにか変化を感じましたか?

「『変な絵』では、絵を描いた人の性格や描いた場所、シチュエーションをしっかり決めて、リアリティを出すように意識しました。第1章の複数の絵を重ねるアイディアも、作中に組み込むうえで、一度考えとして排除してみたり、違う角度から発想してみたりと、試行錯誤しながら形にしていったんです。

 AIに挑戦するうえでも、そのスタンスに大きな変化はありませんでした。ただ、AIの便利さは実感しました。クリックひとつで作品ができるし、すでに多様な表現もできるし、この便利さを一度覚えちゃったら、後戻りはできないだろうなと思います。

 現代人がスマホなしでは生きられないように、近い将来、AIなしでは作品づくりが成り立たないと言われる日が来るのではないでしょうか」