チェンジは「関わる人の数が増えた」こと

 2021年に作家デビューし、『変な家』(飛鳥新社)、『変な絵』(双葉社)と立て続けに大ヒット作品を生み出している雨穴さん。人気作家になったことで、人生に「CHANGE」は起きたのだろうか?

「本を出す前は個人でモノづくりをしていたので、その頃と比べると、協力してくれる人も増えて、大きな規模のモノづくりができるようになったのが一番の変化ですね。

 ただ、その一方で、自分が誰に向けて作品をつくるのかという気持ちは変えないようにしています。本が売れると、ありがたいことに、私のことを作家や小説家として見てくれる機会が圧倒的に増えました。すると、心の片隅で、もっと文学的で、もっと高度な文章表現をしたほうがよいのではないかという思いが出てくる。

 でも、私の作品が支持されているのは、分かりやすい文章で、本が苦手な人でも抵抗なく読めるからです。その点は忘れないようにして、これからも作品をつくっていこうと思っています」 

――分かりやすさもありますが、雨穴さんの作品には斬新なアイディアが散りばめられていますよね。たとえば、『変な絵』では、とある奇妙なブログを見つけることから物語がスタートしますが、そのブログがネット上に実在しているといったサプライズが仕掛けられていて、大きな話題を呼びました。

「ありがとうございます」

――そういった架空と現実の世界を地続きにさせたり、境目をあいまいにさせたりする演出という点では、ドキュメンタリー風の映像表現をした“ホラーモキュメンタリー”というジャンルが思い浮かびます。近年、流行の兆しを見せていますが、いかがですか?

「私も以前から流行っているなと感じていましたが、小説投稿サイト『カクヨム』に投稿された、背筋さんの『近畿地方のある場所について』という作品が、ネット界隈ですごい話題になっているのを見たときに、本格的なブームが到来したなと感じました」 

――なぜ、ホラーモキュメンタリーが流行っているのでしょうか?

「その作品やジャンルを懐かしいと思う世代と新しいと感じる世代、2つの世代ができることで、はじめて大きなブームになります。その点でいうと、かつての掲示板サイト『2チャンネル』で流行した“実話風怪談”に慣れ親しんだ世代が、現代風にアップデートされたホラーモキュメンタリーに惹かれているんだと思います。そして、実話風怪談を経験してない世代は、まったく新ジャンルのホラーとして楽しんでいるのではないでしょうか」

今後の作品づくりの展望

――ホラーモキュメンタリーでオススメの作品はありますか? 

「ユーチューブチャンネル『ゾゾゾの裏面』で配信された、動画作品『【閲覧注意】拾ったら死ぬ…心霊スポットに捨てられた噂の写真を追え!謎の一軒家を巡る恐怖の全記録』がオススメです。これを、モキュメンタリーと断言して紹介するのは、作り手の方たちに失礼かもしれないので、本当にあったかもしれない“ホラードキュメンタリー”として紹介させていただきます。

 映像、ストーリーともにリアルで、ドキュメンタリーとしての緊張感がひしひしと伝わってきます。また、ゾゾゾさんの作品は、すべてを説明しない作品が多いのですが、この『拾ったら死ぬ…』は、なぜ怪異が生じているのかという謎解きの部分にしっかり焦点を当てているので、ミステリーとしても楽しむことができます」

 淡々と語りつつも、随所にホラー愛をのぞかせる雨穴さん。最後に、今後の作品づくりの展望を聞いてみた。 

「多くのホラー作品は、幽霊の生前の姿、つまり人間だった頃の姿を表面的にしか描いていません。でも、幽霊だって、生前は人間臭い生活をしていたわけで、幽霊になるまでの前日談がちゃんとあるはずです。そのへんをしっかり描いたうえで、幽霊を見せる。そこに、新たなホラー表現の糸口があるような気がしています」

 はたして、どんなホラー作品を生み出してくれるのか。雨穴さんの今後に期待したい。

雨穴(うけつ)
ホラーな作風を得意とし、“ネット界の江戸川乱歩”とも呼ばれる覆面作家。ユーチューバーとしても活動中で、登録者数は100万人を超え、ユーチューブの総動画再生回数も1億回を突破。白い仮面と黒い全身タイツが特徴的。デビュー作『変な家』(飛鳥新社)に続き、初の書き下ろし長編小説『変な絵』(双葉社)は、80万部を超える大ヒット。著書累計は100万部を超える。

『変な絵』(コミック)
原作:雨穴
漫画:相羽紀行
配信ページURL:https://www.cmoa.jp/title/288534/