なぜスイーツに特化しようと思ったのか?

 父ジョエル・ロブションは、古典的なフランス料理へ回帰した「ヌーベル・キュイジーヌ」という伝統を尊重した巨匠だった。「ヌーベル・キュイジーヌ」には定義が存在し、一例を挙げるなら「いたずらに複雑化しない」「濃くて重いソースを作らない」「郷土料理を見直す」「加熱時間を短縮する」といったことが求められる。すなわち、ジョエル・ロブションを冠する店舗では、革新的でありつつも、こうしたルールから著しくは逸脱しにくいことを意味した。

「ジョエル・ロブションは、カリスマですから壊すことはできない。亡くなってなお、その影響力は絶大です。そのため、自分のブランドを立ち上げるしかないと思いました。ロブションという名前にはブランド力がある。一方で、下手なものは作れない。諸刃の剣であることは、私が一番、分かっているつもりです」

 2023年、兵庫県芦屋に初プロデュースとなるスイーツショップ『Patisserie La Gare by Louis Robuchon(パティスリー ラ・ガール バイ ルイ ロブション)』を、今年3月には表参道にショコラ専門店『Eclat de Chocolat Louis Robuchon(エクラ ドゥ ショコラ ルイ・ロブション)』をオープンした。

 なぜスイーツに特化しようと思ったのか? そう質すと、

「私はお菓子が好きなんです」と人懐っこい笑顔で言葉が返ってくる。「幼き日、父が“このクッキーも誰かの笑顔のために作っているんだよ”と厨房から微笑み、言葉にしたその瞬間を、今でも鮮明に思い出します。その時の、父の笑顔が私の心に深く刻まれています。この思い出が私の原点となり、お菓子やスイーツを通じて、世界中の人々に笑顔を届けたいという想いを抱くようになりました。」だが次の瞬間、力強い眼差しで、「この分野であれば父ジョエル・ロブションに勝てるのではないかとも思ったからです」とも打ち明ける。

「父は、お菓子やケーキも手掛けていましたが、ショコラに特化することはありませんでした。とりわけ、ショコラ専門店『Eclat de Chocolat Louis Robuchon(エクラ ドゥ ショコラ ルイ・ロブション)』は、とても大きな可能性を秘めていると感じます。父とは違うスタイルが打ち出せるのではないかと思っています」