父にはない、自分だけの強み
そんなルイ氏の母は、福岡生まれの日本人。日本にアイデンティティを持ち、慶應義塾大学卒業後は自ら立ち上げた日本酒やワインの輸出入事業を通じて、日本の生産者と接してきた。そうしたルーツと経験は、「父にはない、私だけの強み」だと、ルイ氏は胸を張る。
「ショコラの可能性は、まだまだある。父の料理からインスパイアを受けた“4種を順に味わう(アミューズ・ブーシュ、前菜、メイン、デセールの順番で食べる)”フレンチのフルコース仕立てのショコラはその一つ。また、伊豆本わさびを使用したショコラや、喜界島の純黒糖を使用したショコラなど、日本の素晴らしい食材を利用したショコラも、ルイ・ロブションでしか楽しめない一品です。ショコラを通じて、日本の知られていない魅力を提案することもできます。ショコラだからこそできるチャレンジがある」
ジョエル・ロブションは、「ヌーベル・キュイジーヌ」に新しい技法を融合させることで、「キュイジーヌ・モデルヌ」というスタイルへと昇華させた。伝統と革新がなければ、たくさんの人を魅了することはできない。そのバトンは、ルイ氏にしっかりと受け継がれている。
「最高の料理を作るには、最高の素材を使わなければいけません。とことんまで素材にこだわるのは、父から学んだ教えです。父は、“食べ物を大切にするように”と常々話していました。愛情を持って食材、料理に接しろと。自分の家族や恋人が食べると思って、お客様のために作るんだと繰り返し教えてくれました。気持ちを込めること。その教えを忘れずに、挑戦し続けていきたいですね」
フランスと日本の懸け橋になりたい。その思いは、ずっと変わらない。父とは違う新しい世界観で、ロブションの名を広げる。かつて父は子に、「料理人にはなるな」と釘を刺した。しかし、今、躍動するルイ氏の姿を見て、父の思いは変わっているに違いない。
(了)