『また君に恋してる』が新たな“坂本冬美”を引き出した

 同年11月にオンエアがスタートすると同時に話題になり、携帯電話の着うたとして人気が沸騰。急きょ、すでにリリースが決まっていた新曲『アジアの海賊』のカップリング曲として発売され、大ヒットシングルとなった。

「レコード会社の社長さんから〝CDジャケットでは、着物を脱いでくれますか?〟と言われて、初めてラフなお洋服姿で撮影しました。歌番組にもジーンズで出演しましたが、驚かれた方も多かったみたいですね。演歌歌手・坂本冬美といえば、家に帰っても和服で日本酒しか飲まないというイメージが強かったみたいで(笑)。私自身は、普段からよく着ていたので違和感はなかったのですが、だからこその照れはありました」

──というと?

「着物を着たら〝私は演歌歌手よ〟というスイッチが入って、堂々とお客様の前に出られるんですけど、普段のスタイルのままだと、なんというか、ヤドカリが貝殻から出てきて〝あら、なんだかちょっと恥ずかしいわ〟という感じ(笑)? ジーンズにパンプスを履いてステージに上がったときはドキドキして、右手と右足が同時に出ちゃうような緊張感がありましたね」

──素の自分と、表に出る自分との境目という感じだった?

「そう、そんな感じでした。でも、これを経験したからこそ、ドレスを着て歌番組で歌うようになり……それまでもコンサートではドレスで歌うコーナーがあったんですけど、テレビではほとんどが着物で、首から上と手首から先しか出してなかったのに、ドレスで腕やデコルテまでお見せするようなりました(笑)」

『また君に恋してる』はロングセラーとなり、ファン層は一気に広がった。

「それまで私の歌に触れることがなかった方が、あの曲を通して、他の曲も聴いてみようか、コンサートにも行ってみようかと思ってくださった。いまの坂本冬美への扉を開けてくれたのが、『また君に恋してる』という曲だったと感謝しています」

坂本冬美 撮影/有坂政晴

坂本冬美(さかもと・ふゆみ)
1967年3月30日生まれ、和歌山県出身。‘86年、NHK『勝ち抜き歌謡天国』和歌山大会で名人となり、同番組で歌唱指導をしていた猪俣公章氏のすすめで上京。内弟子を経て’87年に『あばれ太鼓』でデビュー。‘88年、『祝い酒』でNHK紅白歌合戦に初出場。その後、RCサクセションのアルバムに参加し、’91年には、忌野清志郎、細野晴臣とロックユニットHISを結成して活動の場を大きく広げる。‘09年に発表した『また君に恋してる』は第52回日本レコード大賞で特別賞を受賞するなど、記録的なヒットとなった。今年2024年は2月21日にシングル『ほろ酔い満月』を、6月26日に最新カバーアルバム『想いびと』をリリース。

●作品情報
ニューアルバム『想いびと』
2024年6月26日発売
価格:3500円(税別3182円)
さまざまな時代を歩んできた心の中にある「想い」をコンセプトに、あの日、あのとき、そしてあの場所。大切な「想い」を歌に込めたハートウォーミングなアルバム。

収録曲
1 「ひまわりの約束」
2 「恋の予感」
3 「サクラ、散ル…」
4 「月」
5 「千の風になって」
6 「身も心も」
7 「One more time,One more chance」
8 「Oh! クラウディア」
9 「心 はなれて」
10 「花瓶の花」