平成のJ-POPシーンに颯爽と登場し、瞬く間に世間にラップを浸透させたm.c.A・T。ハイトーンボイスから繰り出される『Bomb A Head! 』というフレーズは、令和のミュージックシーンにおいても色あせない。今年でデビュー30年目を迎えたm.c.A・Tの謎に包まれた人生の転機とは? 【第1回/全5回】
「年齢は非公表なんだけど、誰かがウィキペディアに書くんだよね」
m.c.A・Tの事務所で行われたインタビュー。彼の持つ独特のオーラに緊張していた取材陣に対し、冒頭の一言で場を和ませた。
ラッパーであり、ミュージシャンでもあり、プロデューサー業もこなすm.c.A・Tの誕生の前には、富樫明生という人物の存在が欠かせない。
「m.c.A・Tより先に、富樫明生というプロデューサーという存在がいたんですね。MCっていうのは、マスターオブセレモニー(master of ceremony)からきていて、そこから取った『m.c.A・T』と名乗る前から、A・Tという名前はあったんです。富樫がプロデューサーとして関わることになって、そのままA・Tという呼び名を残した。それを引き継いで、m.c.A・Tが誕生しました」
最初は富樫明生が曲を作り、m.c.A・Tが歌詞を作るという流れだった。「それが全部、自分でやるようになってしまった」という。
「1990年はまだ、ラップという要素がポップスの中に組み込まれていなかった。当時からスチャダラパーさん(ヒップホップグループ・88年結成)やいとうせいこうさん(ラッパー、小説家。80年代から日本語を使ったラップを用いた先駆者的存在)が活動されていたんですが、やっぱりラップ=ライム(韻を踏む)っていうルールにこだわるがゆえにポップスというジャンルにはなりづらかったんです」
ラップでありながらも、誰もが口ずさみたくなるようなキャッチ―なサビ。「Bomb A Head! 」や「ごきげんだぜっ! 」というような独特のセンスはどのようにして生まれたのだろうか。
「メロディーと歌詞を作るときには、アクセントのある言葉選びを重要にしています。内容はもちろん大切なんですけれど、まずテーマを作るのが一番大切だと思っている。そこから、なるべく知られている言葉を使いたいけど、その中でも同じ意味で印象に残る言葉を選ぶようにしています」