「この人の代表作といえば?」と聞かれたら、ある人は大河ドラマ『風林火山』で演じた軍師・山本勘助や、ドラマ『JIN-仁-』の坂本龍馬、はたまた『きのう何食べた?』の矢吹賢二(通称・ケンジ)など、人によって挙げる作品や役名がこれだけ多岐にわたる役者もそういないだろう。豪快で型破りな人物から、繊細さを秘めた役柄まで、徹底した役作りと演技力で巧みに演じているのが、俳優・内野聖陽さん(56)だ。

内野聖陽 撮影/冨田望 スタイリスト/中川原寛(CaNN) ヘアメイク/佐藤裕子

 早稲田大学在学中に文学座附属演劇研究所に入所。デビュー後は、映画や舞台、ドラマなど幅広く活躍し、学問や芸術といった領域で功績を残した人に贈られる「紫綬褒章」をはじめ、多くの演劇賞を受賞している。30年以上を役者として歩んできた内野さんに、最近起こった変化とは?【第3回/全4回】

 この日は先に撮影からお願いすると、肩周りを軽くほぐしたりストレッチをしたり。時折カメラマンさんと談笑しながら、リラックスした表情も見せてくれた内野聖陽さん。そんな内野さんが役者になった経緯や、これから演じてみたいキャラクターなどを聞いてみた。

――先ほど、“お芝居をすることで自分の存在を確認できたことがある”と仰っていましたが、もう少し詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか。

「実家がお寺なので、ゆくゆくは家業を継がなくてはいけなかったんです。そういう縛りの中でずっと生きてきて、自分が確実に“そこにいる”という感覚や実感がどうしても必要だったんですね。

 もしかしたら、その方法は何でもよかったのかもしれないけど、“演じる”ということを手立てに“生きてみたいな”という積極的な気持ちになれた気がするんです。青春期に自分探しで身もだえしている時期ってあるでしょう? そのひとつの出口が、僕の場合は俳優だったんです。

 なので、俳優になるにあたって“この作品や監督が好き”とか“憧れの俳優さんがいて”というきっかけや理由はないんですよ。自分の中に鬱々とした青春時代があって、そこから抜け出すひとつの手立てが“演じること”だった。演じることは、人間性を回復するのに多大な影響を及ぼすということを実感として、肌で知っているんです」