「僕はずっと“小津安二郎が作るものが映画というものだ”と、思っていた」
『彼岸花』、『お早よう』、『秋日和』、『秋刀魚の味』……。幼い中井は、スクリーンで動き、話す父を、食い入るように見ていたことだろう。
「僕はずっと“小津安二郎が作るものが映画というものだ”と、思っていたんです。まわりの人たちが“年齢を重ねて小津作品の良さがわかるようになってきた”なんて言ったりしますが、幼稚園のときから小津作品を見てきたわけで、例えが合っているかどうかわかりませんが、幼少期から高級料亭の料理を食べてきた感じでしょうか(笑)」
小津安二郎と佐田啓二がこの世を去ってしまっても、中井家には“小津イズム”が生きていたという。
「小津先生は、“粋である”ということを大切にされた方でした。例えば、ある日先生が母に“おい、ウナギを食べに行くぞ”とおっしゃって、タクシーを呼ぼうとされた。しかし母は“ウナギ屋はうちの近所にもありますし、わざわざタクシーを呼んで遠くまで食べにいくなんて、ぜいたくですよ”と言ったんですね」