小津安二郎が説いた“心を豊かにするぜいたく”とは

 すると小津安二郎はこう言ったという。

──ぜいたくというのは、心を豊かにすることなんだ。近いからという理由で店を選ぶのではなく、タクシー代と時間をかけてでも、おいしいウナギ屋に行って一口食べたら、“うわぁ、おいしい”と思うだろう? その気持ちが大事なんだよ。心を豊かにするぜいたくはするものだ。

「そういう考え方は、わが家の教育に織り込まれていたと思いますね。だからといって、母がぜいたくをさせてくれたかというと、そんなことはなかったですけど(笑)」

中井貴一 撮影/有坂政晴

“小津イズム”を身体と心の深いところに抱いて60余年を生きてきた中井貴一に、小津安二郎をモデルとした舞台の出演依頼が舞い込んだ。もちろん、小津を思わせる主人公、小田昌二郎役である。

「そもそもは、僕がわが家と小津先生とのつながりをうっかりお話ししたことが企画のスタートなのですが、最初はお断りしました。“わが家に伝わっているエピソードをお話しするなど、ご協力は惜しみませんが、僕はやれません”と」

(つづく)

中井貴一(なかい・きいち)
1961年9月18日生まれ。東京都出身。1981年に映画『連合艦隊』で俳優デビューし、日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。ドラマ『ふぞろいの林檎たち』シリーズ(TBS系)で人気を集め、数多くの映画、ドラマ、舞台で活躍。近年の主な出演作は、舞台『月とシネマ2023』、リーディングドラマ『終わった人』、ドラマ『ザ・トラベルナース』(テレ朝系)、『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)、映画『大河への道』(2022)、『海の沈黙』(2024)などがあり、2025年8月15日公開の映画『雪風 YUKIKAZE』が控える。
ヘアメイク:藤井俊二

パルコ・プロデュース 2025『先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜』

【作】鈴木聡 【演出】行定勲
【出演】中井貴一/芳根京子 柚希礼音 土居志央梨 藤谷理子 久保酎吉 松永玲子 山中崇史 永島敬三 坂本慶介 長友郁真 長村航希 湯川ひな/升毅 キムラ緑子 
【東京公演】6月8日(日)〜29日(日) PARCO劇場
【大阪公演】7月5日(土)〜7日(月) 森ノ宮ピロティホール
【福岡公演】7月11日(金)・12日(土) J:COM北九州芸術劇場 大ホール
【熊本公演】7月15日(火) 市民会館シアーズホーム 夢ホール
【愛知公演】7月19日(土)・20日(日) 東海芸術劇場 大ホール
公式サイト:https://stage.parco.jp/program/senseinosenaka/