新しい技術の採用やインプット
ーーそういった「新しい技術の採用やインプット」に興味を持ち続けられるのはなぜでしょうか。
ひうら:ミーハーなんですかね。「古いものがいい」とはあまり思わないのが、性格としてあるんだと思う。それに、古くなることへの恐怖感がやっぱりありますね。
ガビン:最近思うのは「新しいものこそ面白い」という「古い価値観」にいるんじゃないかなということです。だから新しいものを見続けるし、ノスタルジーにそもそも興味がない。
ひうら:なるほど!その表現はぴったりですね。
ガビン:僕自身でいえば、「むかし語り」をする先輩が多かったし、それが嫌だったんです。だから「僕はぜったい昔のことは話さないぞ!」という無意味なルールががある。世代的に「古いものを知ってるほうがエラい」みたいな価値観で育ったけど、いまはサブスクだから、新しいものも古いものも並列なんですよね。音楽にしても、Spotifyを使ってると昔の曲とか昭和のヒット曲みたいなのが、年齢に合わせたコンテンツとして出てきますが。

ーー年齢や性別、曲の履歴によってアルゴリズムがユーザーへのおすすめコンテンツを出してくるターゲティング機能ですね。
ガビン:僕はそういったものを全部無視して、新しいもの、自分が興味があるものを聴き続けてる。よく「最近のアイドルは区別がつかない」とか言うじゃないですか。
ひうら:年を取るとそう言い出しますよね。
ガビン:でも、あれは興味が薄くなって、接してる時間が単に少ないから、解像度が下がってるだけだと思うんですよね。自分が興味を持ち続けているもの、僕の場合はアートの周辺は興味が持続し続けているので、新しいものを楽しめるという状態が保ててると思いますね。
ひうら:分かります。集中力を途切れさせると、もう一度その世界に入るのはカロリーが高いから、年齢を重ねると余計にいろんなことに足が遠のきがち。でも、いざ渦の中に入れば、そして渦の中に居続ければ、ずっと興味が湧くし、新しいことも面白く感じ続けることができますよね。
ガビン:教員として大学生に関わっているし、彼らがいろんな情報を持ってくるから、新しい興味の山がずっと目の前にあるんですよね。もちろん、年齢的にはいざプレイヤーとして何かを立ち上げるのは、むちゃくちゃしんどい。だから無理せずに、できる範囲のことをやるべきかなと思いますね。仕事しなくなったら解像度が急激に下がると思うし、脳や筋力を衰えさせないためにも、興味を持ち続けられる環境があるのはありがたいです。
(つづく)

ひうらさとる
漫画家。1966年大阪府生まれ。1984年『あなたと朝まで』でデビュー。2004年に連載開始した『ホタルノヒカリ』が大ヒットし、ドラマや映画にと展開。最新作品は『西園寺さんは家事をしない』。旅にまつわるエッセイ本『58歳、旅の湯かげん いいかげん』(扶桑社)も好評。

伊藤ガビン(いとう・がびん)
編集者/京都精華大学メディア表現学部教授
1963年 神奈川県生まれ。学生時代に(株)アスキーの発行するパソコン誌LOGiNにライター/編集者として参加する。1993年にボストーク社を仲間たちと起業。編集的手法を使い、書籍、雑誌のほか、映像、webサイト、広告キャンペーンのディレクション、展覧会のプロデュース、ゲーム制作などを行う。またデザインチームNNNNYをいすたえこなどと組織し、デザインや映像ディレクションなどを行う。主な仕事に「あたらしいたましい」MV(□□□)のディレクション、Redbull Music Academy 2014のPRキャンペーンのクリエイティブディレクションなどがある。また個人としては、201年9あいちトリエンナーレや、2021年東京ビエンナーレなどにインスタレーション作品を発表するなど、現代美術家としても活動。編著書に、『魔窟ちゃん訪問』(アスペクト)、『パラッパラッパー公式ガイドブック』(双葉社)など。現在は京都に在住し、京都精華大学の「メディア表現学部」で新しい表現について、研究・指導している。近年のテーマに自身の「老い」があり、国立長寿医療研究センター『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』の編集ディレクション、日本科学未来館の常設展示「老いパーク」に関わるなど活動範囲を広げている。今春、単著『はじめての老い』(Pヴァイン)を上梓。