主演・小栗旬は「自分の出番がない日も頻繁に現場に来て、静かに見守ってくれていた姿が印象的」

――事実の羅列だけになっておらず、その場にいた、または関わりのある人たちの心情をしっかり捉えて、描かれていたなという印象があります。

「おっしゃる通り、数多くの事実から複眼的にエピソードを抽出し、それらを全体的なエモーションで捉えている見事な脚本構成でした。この映画はダイヤモンド・プリンセス号にまつわる物語ですが、あのパンデミックで浮かび上がった、世界の縮図の物語でもあります。我々の生きる現代社会の構図を描いていて、そこにある様々な人間ドラマを映しています。この作品の大きな挑戦に、ぜひとも参加し力を注いでみたいと思わされるものでした」

――増本さんもずっと現場にいらっしゃったそうですが、お芝居の作り方で気づいたことや他の方との違いはありましたか?

「関根監督と共に、今作の総責任者であり膨大な情報が頭に入っている増本さんが、常に現場で見て判断をしてくれていました。クリエイティブに向いた素晴らしい環境だったと思います。製作の船長として増本さんがいて、指揮官として関根さんがいて、俳優部の船長として小栗さんがいて。

 僕の撮影は船内パートが主だったので、小栗さんとは少ししかお会いできていませんが、自分の出番がない日も頻繁に現場に来て、静かに見守ってくれていた姿が印象的です。首脳陣に信念と責任感の強い方々が集まったからこそ、出来あがった作品だと感じています」

――昨今は原作実写化の作品が多い中、企画を立ち上げて自ら取材をし、オリジナルの脚本を描き上げた作品というのも、ひとつの挑戦だったのでしょうか。

「映画はオリジナルであればなおさら企画開発に大きなお金と時間が必要ですから、大手のスタジオによってのみ製作され、偏った商業主義をもつ日本のメジャー映画において、今作は大きな挑戦だったと思います。さらにコロナを題材に、売れた原作のないオリジナルのメジャー映画を作るということは、これまでの常識からするとタブーに踏み込んだものだったと思います。ただ、見方を変えれば、どれほど読まれた原作があったとしても、あの日全世界が共通の痛みを共有したコロナという題材の認知には敵わないと思います」

池松壮亮 撮影/有坂政晴