渥美清さんからもらった時計

 その前年の1988年には、山田洋次監督の『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』にも出演しました。シリーズの第40作、女医の真知子役でした。正直、あの現場は緊張しました。長く続いたシリーズに途中から入っていくわけですからね。みんなもう以心伝心でお芝居できる。その中にゲストで入っていく。もし失敗したら、それはキャリアある女優が招いた結果でしょ。そのプレッシャーは相当なものでした。

 渥美清さんはその頃、あまりお元気ではなかったんです。夕方五時になると、どんな大事なシーンの途中でも、カットして帰ってしまわれる。最初はどういう方なんだろうと思ったけれど、後からわかりました。お病気で体がつらかったんですね。そういうご状態でもあれだけの仕事をされていたんです。一生懸命やった作品ですから、今も「よかった」と言っていただけることがあると、ほっとしますね。

 結局、渥美さんとご一緒したのは3本だけ。東映の映画で1本、テレビで1本、そして寅さん。それが最後になりました。あるとき渥美さんから時計をプレゼントしていただきました。大事にしていたのに、いつの間にか行方不明になってしまって……。ずっと気になっていたら、ついこの間、孫が私の別荘で「何か宝物があるんじゃないか」とあれこれ引っ張り出していたところ、その時計を見つけ出したんです。渥美さんが亡くなって30年近くになりますけど、こういうかたちで出てくるんだなと、しみじみしました。

三田佳子(みた・よしこ)
1941年10月8日大阪府生まれ。1960年、女子美附属高校卒業と同時に東映に入社。『殺られてたまるか』のヒロイン役でスクリーンデビュー。以後日本映画全盛期を代表するスター女優のひとりとして、東映在籍中60本以上の作品に出演。1967年、独立して三田佳子事務所を設立。各社の映画、舞台、テレビ、出版等多分野に活動の場を広げ、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞・ブルーリボン賞・田中絹代賞・芸術祭賞等賞歴多数。一方で、朗読の枠を越えた音楽家との共演や、唐十郎作品・宮藤官九郎作品への挑戦など、常に新しい表現を求めるアクティブな姿勢は変わらない。2013年に文化庁長官表彰、翌年2014年には旭日小綬章を受賞。

映画『お終活3 幸春!人生メモリーズ』
出演:高畑淳子 橋爪功 剛力彩芽小日向文世 三田佳子
作・監督:香月秀之 主題歌:さだまさし「神さまの言うとおり」
公式サイト:https://oshu-kat-su.com/3/
5月29日(金)より新宿ピカデリー、イオンシネマ他全国ロードショー
(c)2026「お終活3」製作委員会
配給:イオンエンターテイメント