当局の「水準ではなくスピード」という説明と「1ドル=160円」を意識した為替介入の矛盾

──政府日銀はこれまで、一貫して「重要なのは水準ではなくスピードだ」と説明してきました。しかし今回の介入は、1日で何円も変動した過去の介入と異なり、明らかに「1ドル=160円」という防衛ラインを強く意識した動きに見えます。これまでの立場とは矛盾していないでしょうか?

「おっしゃる通り。ただ、当局としてはあのタイミングで介入せざるを得ない理由があったのでしょう。流れが怪しいと判断したのか、あるいはGWの薄商いでチャンスだと見たのか。この辺りも、前回の介入を担当した神田眞人財務官(当時)の方がハンドリングが巧みでした」

──“限界”となると、このままでは1ドル170円も視野に……?

「根本的な対策として、利上げしないとそうなります」

 輸入に頼った日本にとって、円安はあらゆるモノの価格を上げる要因だ。仮に1ドル170円にもなれば、庶民の生活はさらに苦しくなるだろう。

 利上げといえば、6月15〜16日に開催された日銀金融政策決定会合では0.25%の利上げが決まり、政策金利が1.0%に引き上げられた。今回のインタビューは会合の前に行われたが、エミン氏は利上げを“最大のポイント”に挙げていた。

「実質金利がこれほど大幅なマイナスであれば、通貨が売られるので、円安が進むのは当たり前。円安局面で金利を上げるのは経済学のABC、基本です。さらに外部ショックが加わり、日本の経常収支や貿易収支は悪化しています。要するに、日本の“稼ぐ力”が弱まっているんです」

──日銀が痛みを伴いながら金融政策を正常化していくとして、どのようなステップを踏むのが最も社会的混乱が少ない、収まりの良い形になるでしょうか。

「ABC経済学をするしかないですよ。基本に則って利上げを進める。利上げによって多少の景気悪化があるとしても、それは日銀の仕事ではない。政府がその分、支援を用意すればいいのです」

 現在の経済・金融の状況を、エミン氏は「歪み」と表現する。

エミン・ユルマズ 撮影/松野葉子