自社ブランド「TRIPATH PRODUCTS」の躍進
経営が安定し、2017年に正式に社長に就任した杉本代表は、「明後日をおもしろくつくりかえる」という新たなミッションを全社に掲げた。下請けの仕事だけでなく、自分たちの技術で直接世の中を熱狂させたいという挑戦だ。
その象徴として立ち上げたのが、自社初となるアウトドアブランド「TRIPATH PRODUCTS(トリパスプロダクツ)」である。
杉本代表は自ら陣頭指揮を執るのではなく、メーカー出身の優秀な人材を招き入れ、彼らに全権を委ねた。他社が「自分たちの板金技術で作れるもの」に固執して失敗する中、「デザインと唯一無二の世界観」に徹底的にこだわった。
結果、無骨で革新的なデザインの組み立て式焚き火台は、SNSを中心に爆発的にバズり、最大で年商数億円規模の大ヒットを記録した。この成功は、売上以上に大きな恩恵を会社にもたらした。
「この事業は、お金儲けのためではなく、あくまで『明後日をおもしろくつくりかえる』というミッションを体現するために始めたものです。結果的に一番嬉しかったのは、このブランドを見た若い人たちが『この会社で、こんなかっこいいモノを作りたい!』と、目を輝かせて次々に入社してきてくれたことです」
下請けの静かな町工場は、若者たちが憧れ、熱気あふれるメーカーへと劇的な進化を遂げたのである。
経営を立て直す一方で、杉本代表も自らの内面と深く向き合っていた。中学生の時に嫌悪して辞めたはずのピアノを、自らの稼いだお金で買い直し、再び弾き始めたのだ。
彼が選んだのは、美しく優雅な曲ではない。ロシアの作曲家・スクリャービンが遺した、魂の叫びとも言える難曲だった。
「自分が歩んできた人生の葛藤や感情、そのすべてを表現できる曲だと思ったんです。ピアノも経営も本質は同じで、まずは『こうなりたい、この世界観を表現したい』という明確なビジョンを描く。そのために指の練習をする。日々の業務もそうです。確固たる目的意識がなければ、目先のことにどれほど時間を費やしても意味がないと思うんです」
多忙を極める現在も、さらなる高みを目指してストイックに鍵盤に向かい続ける杉本代表。それは、彼が己の内面と深く対話するための大切な時間となっている。
北海道の未来を背負う。希望を繋ぐ「三方良し」のM&A
自社の基盤を盤石にした杉本代表が、現在最も強い使命感を持って注力しているのが、後継者不足に悩む企業をグループに迎え入れる「M&A」である。
「北海道の板金事業は、本州との輸送コストの問題もあり、一定の売上規模(15億円程度)で成長の限界が来てしまいます。これ以上無理に伸ばそうとすれば赤字になってしまう。だからこそ、M&Aを通じてグループ全体の製造力を上げていく必要がありました。一般的に成熟産業において自前での拡大は価格競争を招き、結果的に業界を疲弊させます。強者が弱者を淘汰するこれまでの手法ではなく、M&Aによる再編こそが成熟産業を健全に発展させる方法だと確信しています。私は時代に合ったこのやり方をもっと世に広めていきたい」
彼のM&Aに対する哲学は、愛と合理性に満ちている。
「大切な会社を任せてくださる前オーナー様、買い手である私たち、そして何より、現場で働く社員の皆様。全員が確実に幸せになる『三方良し』でなければ、絶対にやる意味がありません。誰かを不幸にしてまで数字を追うようなビジネスはしないと決めています」
会社を引き継いだ直後、杉本代表が真っ先に行うのは、社員たちの「不安」を「期待」に変えることだ。手始めに老朽化したトイレを綺麗に改修し、工場内にWi-Fiを完備するなど、快適な職場環境づくりから着手する。美味しいお茶を飲めるようにするといった細やかな気配りも、職場に笑顔を増やすための大切なアプローチだ。
そうして信頼を得た後に、改革の本丸である若手採用、設備投資、組織改編、自社製品の開発など、新たな施策をスピーディに打ち出すことで、現場の期待を確信に変え、仕事の熱量を一気に引き上げていくのだ。
実際に、3年前にグループインしたある会社の社員数は1.5倍にまで増え、熱心な若手が入ったことで製造現場に活気が戻っている。他のある会社ではコンベアのOEMが主力だったが、営業や品質保証の機能を新設し、自社製品を開発してメーカーとしての歩みを始めた。家業で培った経験がグループインした会社の経営に活きている。
「新しい体制に移行した直後、社員の皆様は必ず大きな不安を抱えています。だからこそ、最初の半年間で『この会社はもっと良くなる、自分たちの未来は明るいんだ』と確信してもらえることが、私の最大の勝負なんです。環境が整えばスキル向上に貪欲になるし、今までOEM(下請け)しかやってこなかった会社でも、『自分たちも新しいことに挑戦したい!』と熱を帯びて自社製品の開発に取り組むようにもなります。その劇的な変化を見るのが、本当に面白くて嬉しいんです」
無理にグループ間のシナジーを強要することはしない。「一社一社の歴史と文化を尊重し、後継ぎとして丁寧に伸ばしていく。個々の力が強くなれば、自然と力強い連携プレーが生まれる」と杉本代表は力強く語る。
マインドセットが未来を創る…異端のリーダーが鳴らす号砲
仕事が終われば夜の街へは行かず、ピアノ、そして厳しいマラソンといった自らの心身を鍛え上げることにひたすら没頭する。
しかし、その徹底したストイックさと合理的な思考の裏には、預かった会社とすべての社員の生活を確実に守り抜き、製造業の未来を切り拓くという、経営者としてのマグマのような責任感が渦巻いている。
最後に、先が見えずに不安を抱えるすべてのビジネスパーソンに向けて、杉本代表らしく謙遜しながらも熱いメッセージをもらった。
「一番大事なのは、技術ではなく仕事人としての『マインドセット(考え方)』です。ポジティブに考えて行動すれば、必ず道は開けます。先が見えないからと頭で不安ばかりを考えていないで、まずは勇気を出して『一歩』を踏み出してください。やってみてダメなら、その時に全力で改善すればいい。一歩を踏み出さずに立ち止まっている時間の損失こそが、人生において最も恐ろしいことなんです」
過去のしがらみに囚われず、常に合理的に、しかし誰よりも熱い情熱を持って前へ進み続ける杉本光崇代表。彼が推し進める「三方良し」のM&Aは、地域の枠を超えて製造業界に力強い革命の号砲を鳴らしている。
“ものづくり経営力とクリエイティブで社会の進化を加速させる”というmissionのもと、事業会社の成長と自社製品開発にコミットしていきます。各企業が持つ本来の特色を最大限に活かし、活性化させて次世代につなぐこと——それが、MAKERS UNITEDのM&Aにおける基本方針です。