劣等生でした。才能もない、努力もしない。
それにしても、「なぜ私は失踪するわけですか」と、何度も監督に聞きました。当時は戦争経験もあり失踪者が多かったらしいのですが、今でも自分ではよく分かりません。ただ、この場から今すぐいなくなりたい。もう一度人生をやり直したい。あの過去をなくしたい。そんな気持ちは分かります。人間は理屈では通らない行動を取ることもあるかもしれない。
私は名古屋の実家から、高校を卒業した当時に東京で一旗揚げようと上京した一人でした。勉強は嫌いだったし、特技もない平凡な男で、進学も就職もできない。実家はボタンの製造販売をしておりましたが、継ぐというわけでもなかった。当時から映画監督のタランティーノや塚本晋也さんに憧れていて、映画が大好きで、監督、役者に挑戦してみたかったわけです。
その修行の道として仲代達矢さんの無名塾の試験を受け、合格することができた。21歳のときです。受かったときは、もう俺は映画スターだ! と思いましたね。塾の授業料はなし、毎朝5時から掃除、10キロのマラソン、発声、週に2回仲代さんに稽古をつけてもらってました。毎朝眠くて眠くて、サボりまくってましたね。劣等生でした。才能もない、努力もしない。今の自分があることが不思議でなりません。その間のアルバイト先は運送業、居酒屋、レンタルビデオ店など。当時の年収は数十万円で、家賃にも事欠く生活でした。
滝藤賢一(たきとう・けんいち)
1976年生まれ。愛知県名古屋市出身。 『BULLET BALLET』で映画デビュー。『クライマーズ・ハイ』(08)で一躍脚光を浴びる。以降は、数々のドラマ、映画、CM等で活躍の場を広げる。近年の出演作に連続テレビ小説『虎に翼』、映画『木挽町のあだ討ち』『私はあなたを知らない、』『八つ墓村』『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』がある。11月28日公開の映画『戦場のボヘミアン カメラマン 石川文洋』ではモノローグを担当している。
映画『遥かな町へ』
原作:谷口ジロー
監督・脚本:錦織良成
出演:大谷亮平 及川桃利 磯谷萌々子 戸田菜穂 滝藤賢一ほか
48歳の建築デザイナーの中原博史は、仕事の出張帰りにふと故郷・鳥取の倉吉を訪れる。母の墓前でなぜか彼は1963年の町へと迷い込み、“14歳の自分の身体”に戻ってしまう。だが意識は48歳のまま。彼は思春期の少年として、再び家族と向き合うことにーー。
10月9日(金)より全国公開
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
特別協力:映画「遥かな町へ」を応援する会
(c)2026映画「遥かな町へ」
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