2004年からの自衛隊イラク派遣で初代隊長を務め、「ヒゲの隊長」の愛称で親しまれた佐藤正久氏。国会議員に転身してからも安全保障・防衛分野を中心に第一線で活躍し、2026年8月31日には最新刊となる『日本人だけが知らない ドローンとAIの戦争論』(幻冬舎新書)を刊行した。ドローンやAIが戦略を一変させる新しい戦い方や世界の危機的状況に警鐘を鳴らす同書が話題を呼ぶ中、佐藤氏の人生最大の転機(CHANGE)の背景にはどんな思いがあったのか。瞬時の判断を求められる極限の現場で培われたリーダー論と、現在の日本に欠けている安全保障のリアルに迫った。【第2回/全3回】
――自衛官として出世が約束されたエリートだったのに、キャリアチェンジして政界に身を投じたきっかけは何だったのですか。
そのまま自衛隊に残っていれば、万単位の部隊を動かす指揮官になる未来が待っていたと思います。しかし、イラク派遣で「日本の法的な枠組みの限界」を痛感したこともあり、誰かが現場の思いを国政に届けなければならないと考えました。
自民党からの強い要請もありました。当時は連隊長だったのですが、官房長や陸幕長、事務次官から連日電話がかかってきて、庶務室の隊員に「隊長、何か悪いことしたんですか」と心配されたほどです(笑)。最後は防衛庁長官からも電話があり、覚悟を決めました。
――周囲の反応はいかがでしたか。
妻からは「なぜ辞めるの」と泣かれましたね。落選した時は「私に風が吹いた」と言っていましたから、家庭内は常に戦闘地域で地雷だらけです(笑)
自分も本音では自衛隊を辞めたくなかったので、上からの打診に抵抗していました。幹部学校長の計らいで特別に退官セレモニーを開いていただいたのですが、辞めたくない気持ちから前夜は一睡もできず、当日の壇上では涙が止まらなくなり、しまいには鼻血まで出てしまって。今でも部下たちからは「あの鼻血は一生忘れません」と言われます。