NHKの番組に出演オファーが
――CDデビューは2003年ですが、どのようなきっかけでしたか?
「大学4年生のとき、NHKの番組に出演オファーを頂いたんです。まだ学生だったし、レコード会社も所属事務所もない状態。そんな僕に出演依頼なんてくるわけがないと思って、丁重にお断りしていたんですよ。
それが、あるとき、おばあちゃんがNHKのテレビ番組で男性ソプラノ歌手として僕が取り上げられていたっていうんです。数年後、留学から帰国した直後に『スタジオパークからこんにちは』に出演依頼をいただきました。番組の放送後にレコード会社からデビューのお話を頂きました」
それまで音大生だった岡本さんにとって、CDデビューは夢のような話だ。しかし、初めは音源を出すことに抵抗があったという。
「僕は、音楽というものの美しさは、この場で生まれてこの場で消えてなくなるから尊いと考えていた。そういう僕なりの美学があったので、最初はレコーディングをして音源を残すことに抵抗があったんです。
レコード会社の人が、“コンサートに来てくださった方が家で余韻にひたれますし、地方でコンサートに来られない方も僕の歌を聴くことができる”と仰ってくださり、そうやって口説き落とされて(笑)、レコーディングすることになりましたね」
CDデビューは2003年だが、プロとしての初舞台は少しさかのぼる。
「クラシックの演奏家の方々は、大きな演奏会をプロデビューととらえることが多いんです。僕の場合は大学3年生のときの、『第九』のソプラノソロですね」
ベートーヴェンの交響曲第9番、通称『第九』は、第一次世界大戦中の1918年6月にドイツ人の俘虜たちによって全曲演奏の初演が行われた。岡本さんは、大学在学中の98年、『第九』の日本初演80周年記念再現リサイタルでソロを務めた。
「日本で初めて演奏された『第九』って、ドイツ兵俘虜の方たち。だから、女性がいなかったんですよ。徳島県鳴門市にあった収容所にいた俘虜の方が、町の方々に何かお返しがしたいと言って演奏したのが初めてだったんです。男性だけの『第九』が、僕のプロデビューですね」
岡本さんにとっての転機は、音大進学を目指すようになったことだという。
「中学で吹奏楽部に入部して、サックスにのめり込んだ。高知の田舎の吹奏楽部でしたが、部員が60人ほどいたんです。みんなで音を出したときの、全身に鳥肌が立つような衝撃は忘れられない。“なんて素晴らしいんだろう”って感じました。
コンクールで勝ち上がることはできなかったけれど、 “音楽の教師になる”っていう大きな夢ができたのがそのときですね。初めて自分でやりたいことを選んだ瞬間でした」