「このままだったらお相撲さんの役しかできないよ」
しかし、自分ではまだそれほど太っているとは思っていなかった。
ところがあるとき、衝撃的な言葉を聞くことになる。
「(故・中村)勘三郎の叔父から“クニ(本名・国生)は歌舞伎が大好きで、すごく勉強しているのも知ってるけど、このままだったらお相撲さんの役しかできないよ”と言われたんです。忘れもしない、ゴルフ場でした。うわぁ、ぼくは父がやっているあの役も、この役もできないんだと思ったら、足の力が全部抜けるくらいのショックで……。でも叔父が“ちゃんと身体を作ったら、お稽古をしてあげる”と言ってくれたのを励みに、そこから必死でダイエットをしたんです」
まずは、食事を普通の量に。なによりも好きな白いごはんは我慢して、野菜や肉でおなかをいっぱいにした。
尊敬する勘三郎の叔父から稽古を付けてもらって、憧れの役を演じられるように……。
「ちょうど背が伸びる時期だったこともあって、高校2年生になるころには普通の体型になっていきました。でも……」
2012年、病に倒れた中村勘三郎は12月5日、惜しまれつつこの世を去る。
「間に合わなかったことが、本当に残念で仕方がありませんでした。だけど、中学生のあのとき、勘三郎の叔父が言ってくれなかったら痩せようと思わなかっただろうし、そうしたら今、こうやってさまざまな役を演じさせてはもらえなかった。あの言葉が、歌舞伎役者・中村橋之助へと続く、大きな転機でした」
2016年、「中村国生」は、父親が36年間名乗っていた「中村橋之助」を襲名。歌舞伎俳優として、幼いころに憧れた役を演じると共に、テレビドラマやミュージカルにも活動の場を広げ、2025年は初主演映画『シンペイ~歌こそすべて』が公開になる。
(つづく)
中村橋之助(なかむら はしのすけ)
1995年12月26日、東京都生まれ。2000年9月、歌舞伎座で初代中村国生を名乗って初舞台を踏み、2016年10−11月歌舞伎『一谷嫩軍記』で四代目中村橋之助を襲名。2009年1月に国立劇場特別賞、2015年3月に国立劇場奨励賞を受賞。歌舞伎舞台のほか、『オイディプスREXXX』(2018年)『ポーの一族』(2021年)『サンソン−ルイ16世の首を刎ねた男−』などのミュージカルにも出演。『2019年に『ノーサイド・ゲーム』で襲名後初のテレビドラマ出演。2025年1月10日公開『シンペイ~歌こそすべて』で映画初出演にして初主演。
【作品情報】
『シンペイ~歌こそすべて』
2025年1月10日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開
監督:神山征二郎
出演:中村橋之助/志田未来/渡辺大 染谷俊之 三浦貴大
中越典子 吉本実憂 高橋由美子/酒井美紀 真由子 土屋貴子
辰巳琢郎(「たく」は旧字) 尾美としのり 川﨑麻世/林与一/緒形直人
ナレーション:岸本加世子
配給:シネメディア
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公式サイト https://shinpei-movie.com